妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

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「里山資本主義」~資本主義が好きか嫌いかじゃない

これは大好きな本だ。藻谷浩介さんとNHK広島取材班のタグによる里山資本主義」。ざっくり要約すると、お金でのやりとりで成立する資本主義(金をもっていればもっているほど、いろいろなものと交換できる)の脇に、サブシステム(もうひとつの並列させるシステム)として、自然や人のつながりによってモノや情報を交換する仕組みをもっておこう、という本。

「はじめに」だけでも読んでみることをオススメする。都会で猛烈に働くAさんは、もらっている給料は高いかもしれないが、忙しくてなんでも外から買ってくる(外食など)から、支出も多い(疲れたからってマッサージいったり)。一方、田舎の里山を大事にして暮らすBさんは給料は安いかもしれないが、ドラム缶を改良してつくったエコストーブを裏山からとってきた木の切れ端で沸かして、ごはんもそのうえで炊く。数万円もする電子ジャーよりもはるかにうまい米が置いておくだけでできる。しかも、余って食べられないから、と近所のばあちゃんが野菜を届けてくれたりするから支出が少ない。資本主義的には、Aさんのような人間はありがたい(お金をどんどん循環させてくれる)が、ほんとうに豊かな暮らしをしているのはどっちだろうか?

誤解してほしくないのは、本書でも何度も書いているように、物々交換だけの社会や昔ながらの暮らしに戻れと言っている本ではない。お金もないと困るし、お金がないと買えないものも多い。でも、お金に依存しない別の仕組みもサブとして、一緒にもっておきましょう、という内容。東日本大震災を経験した私たちは、お金だけではもろいということを痛いほど実感したのではないか?

NHKの取材班による具体的な事例の鮮やかな描写(NHKスペシャルを見ているかのよう)とともに、藻谷さんのいつもながらの、やや厳しめの口調だが、本質をついた解説が続く構成も、まったく飽きさせない。たぶん数年経っても、読まれる本だと思う。

この本は、社会の在り方や経済について語っていると同時に、実は、個人の生き方や幸せを問う。なんにもない、つまらないところとされてきた田舎について、その良さや資源について再認識させてくれる。徳島の田舎出身の僕にとって自分の経験にも重なって、特に印象的だった箇所を少し引用する。里山を資源に様々な工夫をしかけているある人の言葉だ。

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例えば五月頃には、うるさくて寝られないカエルの大合唱とか、ウグイスのつがいが五、六組もいるような谷とか桃源郷はこういうところかなと思います。しかし、これまでは、こういう田舎が犠牲になってきた。それは、いくら稼いでいるかという金銭的な尺度だけで物事が計られてきたからではないでしょうか。(p53)

息子やむすめたちに、努力に努力を重ねてふるさとを捨てさせるのは、もうやめにしたい。田舎に残った自分はだめだから、自分のようにならないで欲しいという自己否定は終わりにしたい。そうではない時代が、幕を開けつつあるのだから(p63)

・・・引用ここまで

関連本として「イワシ化する社会」にも資本主義だけでは頼らず、贈与経済という仕組みをもっと強くしていく、という話がでてくる。こちらについては、先日ちょっと感想を下記に書いています。
http://ameblo.jp/senoom/entry-11501014570.html

本で人生が変わるなんて、大袈裟なって、僕は前から思っていたけど、里山資本主義という考え方はかなり自分の軸に残ると思うし、少しずつできることから行動にしている今日この頃。ではまた。