妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

「校長という仕事」を読んで

杉並区立和田中学校で藤原さんの後を継いで2代目の民間人校長を5年務めた代田昭久さんの本、「校長という仕事」は抜群に面白い1冊です。教職員の方や保護者の方に強くおススメ。

本書で書かれているのは、民間人校長だったからできたこと、ではありません。ヨソモノだったからこそ、少し距離を置いて観察できたり、気づいたりできたことを参照しつつ、汎用性の高い方法や考え方を提案しています。僕は前職のときに、多少いろんな学校を調査して回りましたが、小学校や中学校、高校、公立、私立問わず、参考になると断言できます。

たくさんありますが、本書の良かったところを2点に絞って紹介しましょう。


第1に、学校の組織文化や教職員のよさ、強みについてしっかり解説しているところ。ちなみに、僕の好きな言葉のひとつに、「美点凝視」というのがあります。ほめるところを発見するって、マネージャーには大事な素質とはいえ、そう簡単ではないですよね。学校批判ばかりの評論家な本ではまったくありません。

(引用p59-60)
 私が学校現場に来てすごく驚いたのは、先生方のスピーチがとても上手なことです。
 話が上手なビジネスマンは数多くみてきましたが、それでも、先生方のスピーチ力は相当なものだ、といつも感心していました。つかみあり、笑いあり、話し方に抑揚があって、最後には必ず落ちがついています。難しい年ごろの子供たちに話しているうちに、いつのまにか鍛えられ、話のプロフェッショナルになっているのだろうと思いました。

(引用おわり)


個人的には、ちょっと褒めすぎな感じもしますが、僕も学校の先生には、話上手で聞き上手な方が多いことは前から感じていました。(もちろんそうではない方もいますが。でもそれはどの業界も一緒ですよね。)僕なんて自分の子どもに対してさえ、話をきかせるのは難しいわけで。小学生や中学生を日々相手にしていると、そりゃ、鍛えられる、と推察します。

なんでもないような一節に見えるかもしれませんが、けっこう大事なところかと。学校の教員は叩かれていることが多い世論です。また、以前とは違って、教員は尊敬される職業とはなりにくくなっている昨今、リクルートの第一線でやってきた代田さんに褒められたら、うれしいと思うし、自慢になりますよ。

学校、特に公立学校は、予算や人も自由度も少ないし、
ないものねだりしても切がないし、問題をあげていくとたくさんあるわけです。それはそれで踏まえないといけませんが、よいところをもっと伸ばそう、活かそうというのは、子どもに対してだけじゃなく、学校の教職員にも大事なことなんじゃないかなと思います。

また、本書では、教職員はリスクを洗い出したり、生徒の危険を感じ取ったりする嗅覚が優れているとも述べています。たとえば、代田さんが、プロ選手を呼んで部活の指導をさせたいと提案したところ、いろんな心配する声、反対意見もたくさん出たそうです。なんて後ろ向きな集団だと思ったそうですが、実際やってみると、「先生方が指摘したことが現実になり、「なるほど、こういうところまで配慮しなくてはいけないのだ」と思いました。」(p129)

このエピソードは、学校文化、教職員のマインドとして、前例踏襲主義、新しいことへのチャレンジを避ける傾向が強いことにもつながる話ではあるのですが、一方では、危機管理などではよさでもあるわけで、このよさを活用しつつ、悪く出そうなところをどう対処するかが校長の力量というところなのかもしれません。

第2に、やらなかったこと、やめたことを書いていることです。世の中のグッドプラクティス集は、うちはこんなすごいことやったよ、という情報で溢れています。しかし、多忙化が進む学校の現状を踏まえると、むしろ、減らすこと、リストラすることに注目したほうがよいかもしれません。本書でも紹介しているように、ドラッカーは経営者の条件として、優先順位ではなく、劣後順位をつけることが大事だと言っているそうです。

たとえば、和田中では、授業力向上のための校内研修をやらないようにしました。ひと月に1~2回の研修よりも、もっと日常での準備が大事だとの考え方のようです。代わりに、和田中では、1コマ50分授業を45分に短くしてういた時間を活用して、朝の脳トレを習慣化したり、携帯やテレビ、ゲームの時間を抑制するよう、具体的なデータを示しつつ保護者や生徒に粘り強く啓発したりすることで、学力向上を図ったそうです。


これには賛否あろうと思います。僕は、教員研修は個業となりがちな教員のノウハウ、暗黙知を共有できる、組織知にできる機会と理解しているので、うまく使っていける場だとは思いますが。

また、和田中では、
休日の部活動や地域の活動に教員は手伝わなくてよいことにした、という点も劣後順位をはっきりさせた好例です。その代わり、学校支援地域本部という場での保護者や住民の活躍やプロのスポーツ指導員の部活での活用などを進めていったという点は、詳しい内容はぜひ本書で読んでいただきたいのですが、なるほどと思いました。

学校の先生で、暇だという人はほとんど聞いたことがなく、取材すると、みんな忙しいって言うんです。で、何を減らせるか聞いても、そんなに出てこない。あれも大事、これも大事ってなりやすい職場だと思います。同じ公務員でも、行政職の場合は、予算がつくかどうかがひとつの優先順位や劣後順位を考えるメルクマールになるのに対して、学校では、予算がついているかとかはあまり関係のない世界だし、いろんなことが子どもの成長にとってはよいことのように見えるので、リストラは至難なわけです。(リストラの本来の意味は人減らしじゃなくて、再構築です。その意味で使ってます。)


でも何か減らさないと、新しいことをやる気力や時間が生まれないのも確か。その点、和田中の実践や代田さんの劣後順位を付けた考え方は、それがどれだけ教員の負担軽減や学力向上などにつながったかどうかは別途検証を要するとしても、大変参考になると思いました。

以上、2点、教職員のよさを活かそうとしている姿勢と、やらなかったことを明確にしたことが、僕にとっては大きなヒントになりました。経営資源は、人、モノ、金、情報とよく言われますが、公立学校においては、モノ、金はほとんど、校長の自由はききませんし、人も、多忙化しているとはいえ、財政難でそう増員されません。そうすると、いまいる人をどうもっとイキイキさせていくかという点、また、情報やネットワーク(地域や大学との連携や塾の活用など)をどう増やすかという変数に注目していかざるをえません。先にあげた2つの魅力は、そういう意味からも限られた資源をよくよく活用した、代田さんの5年間のエッセンスがつまった一冊だと感じました。

校長という仕事 (講談社現代新書)/講談社
¥840
Amazon.co.jp

広告を非表示にする