妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

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2020年「なくなる仕事」について

「2020年に生き残る会社、なるなる仕事」という雑誌の特集が話題になっているようです。識者の見解を整理した記事で、2020年になくなるかもしれない仕事として、交番の警察官や教員があがっているのが興味深いです現代ビジネスの記事)。

※図はクリックすると大きくなります(または上記の記事リンク先へ)

2020年なくなる仕事

出所)現代ビジネス(「週刊現代」2013年7月27日・8月3日号)


この記事を読んで、思い出した話が2つほどあります。

1つは、東洋経済(2014年4月19日)の特集「本業消失」。ここでの富士フィルムの特集がたいへん勉強になりました。約10年前、デジタルカメラやカメラ付携帯が普及し始めたころ、
トヨタから車がなくなる」「新日鉄から鉄がなくなる」と社内で危機感を共有してまわったそうです。当時利益の3分の2を稼いでいたフィルム事業に5千人規模のリストラを2回やることをはじめとする大ナタをふるい、事業転換をはかっていたストーリー。コダックが経営破たんしたのとは対照的であると分析されていました。

がっつり儲かっていた事業に将来性が低いからといってリストラを進めるという経営判断もものすごいのですが、それだけだと、会社は成長しません。富士フィルムのすごいところは、自社の強み(コアコンピタンス)を活かせるところへ事業転換していったところです。たとえば、液晶用フィルム事業アンチエイジングの化粧品事業などを拡大していきますが、これにはフィルムの主原料であるコラーゲンや写真を色あせないようにする抗酸化技術が応用されました。

単に、高齢者が増えているし、美容はいつの時代にも大切だし、これからはアンチエイジングだ!といった薄い考えではないんですね(当たり前ですけど)。


もうひとつは、最近聞いた東大の藤本隆宏先生の講演。藤本先生は日本のものづくりの研究、とくにトヨタ研究の第一人者として知られています。お人柄も素敵で、ほんとに話面白いです。先生の話で印象的だったのは次の点です(妹尾のメモのため一部誤解があるかもしれませんが)。

○冷戦後、中国がグローバル競争の中に入ってくることで、日本の製造業は世界史的に見てもすごい環境の中にあった。なにせ、人件費は日本の20分の1という相手と戦うことになったからだ。おまけに円高がおそった。

○工場をはじめとするものづくりの現場では、その熾烈な環境の中、雇用を守ろうと必死で生産性をあげてきた。人を減らせないなら、生産性をあげるしかない。2年で労働生産性を2倍、3倍にするといった話はざらにある。今生き残っている現場や会社はそんな中を生き抜いてきたと理解するべき。

○日本は強い現場、弱い本社というところが多かった。資本政策などは本社のやるべきことの典型。しかし、本来は強い現場、強い本社をめざすべき。

○いい現場や優れた技術をもっても、よいものをお客さんの人生につなげていくようにすることが大事。1960年代の初代カローラの企画書には、カローラに乗った女性の1日がどう変化するかという物語がたくさん書いてあった。日本にはプロデューサー型の人材がもっと必要だ。

富士フィルムのケースのように、トップが果敢に決断して、事業のかじ取りをすること、強みを生かせる事業転換を図る戦略を通貫させることは、強い本社の話に見えます。しかし、同時に、藤本先生の言うように、日本の現場の力のすごさをどう生かすかという点も重要ということなのだと思います。実際富士フィルムのケースでも、リストラという痛みは大変伴いましたが、現場の強みが生きた事業転換だったのかもしれません。

さて、こうして見たときに2020年に残る仕事、残らない仕事を考えると、そう単純ではないなと、当たり前ですけど、思うわけです。

たとえば、交番の警察官の例で考えてみましょう(この職業はなくなっていいとか主張したい意図はありません)。この記事のように、監視カメラやセンサー、またデータ解析の技術が進歩することで、人が見張らなくても機械が代替できること、または遠隔でできることも確かに増えるかもしれません。住民票がコンビニでとれる市役所も出てきていますが、通報を受けるとか、簡単な相談にのるといったことをコンビニが受けたりすることも出てくるかもしれません。ひょっとすると、市役所、交番、郵便局、銀行などの窓口機能がコンビニか、どこかでワンストップでできる、なんて世の中になる可能性だってあると思います。実際、宅配便やたばこの窓口って、ほとんどコンビニに集約されましたよね。

でも、それだけ多機能をもつ窓口ができると、扱う個人情報も膨大かつセンシティブなものが多くなるし、扱うお金も多額になります。機械で代替できる業務はあるとはいえ、人手を介さないといけない箇所の人の質(セキュリティに対する意識や技術。それから予期せぬことが起きたときの対応力、災害時など特に。)が今以上に問われることになると思います。すると、ひょっとすると、交番のお巡りさんって、かなりよい人材がいるんじゃないかなあ、なんて思うのですが、いかがでしょうか?交番が仮になくなっても、その人にとっては失業の危機ではなく、チャンスかもしれないとも考えられませんかね?

さて、教員についても考えてみたいことがたくさんあるのですが、長くなるので、また今度にします。