妹尾昌俊アイデアノート

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(読書ノート)中国人物伝Ⅰ-孔子の生き方

歴史は暗記モノでつまらない、と思っている人は多いと思う。また、古臭いことを調べて、いまに何の役に立つのかと言う人もいる。

なぜそう感じるのか?これは、かなり学校のときの授業やテストが影響していると見るべきだろう。ちゃんとデータをとっていないので何ともいえないが、どうも”血が通っていない”、”物語性がない”教育になってしまっているケースもあるのではないか?

その点、歴史好きの方を見ていると、かなり共通するのは、歴史上のある人物に共感したり(たとえば、信長や坂本龍馬好きな人は多い)、ある物語が面白いことを知っている人たちだ。NHK大河ドラマや歴史のマンガ(たとえば、センゴクやキングダムなどは本当に秀逸だ)は、たいてい、その時に生きた人々に注目して、語る。要するに、学校の授業や教科書とは違うけれども、人物史のアプローチがとっとつきやすく、かつ面白い。

また、歴史が役立つかどうかは、
その人の仕事や生き方次第なので、一概には言えないけれど、ある人々の生きざまを追体験することは、今の自分の価値観や生き方を相対化し、ちょっと距離を置いて考えてみるのには役立つ。

さて、この人物史の視点から、中国約3千年の歴史をとてもわかりやすく解説してくれている(たぶん中高生でも十分読める)のが、岩波律子さんの『中国人物伝』シリーズ、全4巻。著者は三国志演義を全訳するなどの猛者である。

ともかく、一度手にとっていただければと思うけれど、春秋戦国時代と秦の始皇帝による統一、そして項羽と劉邦の戦いを経て、漢の時代を対象としている第Ⅰ巻は、見どころ満載である。なにしろ、日本の戦国時代や幕末がそうであるように、乱世には面白い人物や、数奇な運命をたどる人たちがなんとも多い。多くは司馬遷史記に描かれる物語であり、史記については、横山光輝の素晴らしいマンガ(=ほんとこちらも名著)で楽しむという方法もあるけれども、本書もたいへん参考になる。

これを読んでいると、政治や軍事に優れた才能を発揮できるかどうかは、その人の生まれや育ちも影響するけれども、そもそも、運・不運も強い(才能を引き出す人と巡り合えたかどうか、自分の強みがその時代の要請にマッチしていていたか等)。

また、必ずしも有能な人が生き残らない。志半ばでアホな皇帝や嫉妬深い同僚に殺されたり、軍事の天才韓信のように、戦争が終わったら、粛清されるといった物語が実に多いことに気付く。まさに「飛鳥尽きて良弓蔵われ、狡兎死して走狗烹らる」(飛ぶ鳥がいなくなると、良い弓はしまわれ、すばしこい兎が死ぬと、猟犬は煮て食べられる)の言葉通り。

もう少し実例をあげよう。論語孔子は中学校でみな習うし、僕たちはそれなりに知っているつもりだけど、彼は身長が2メートル以上の「長人」と称され、ひよわな知識人などではなかったことを知る人は少ない。そして、有名な論語の次の一節

 「吾、十五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども、のりをこえず。」

であるが、当の孔子本人は、彼が理想とする政治を実践したいと志し、諸国を放浪して説いて廻るのだが、挫折の連続。やっと自分の思う政治改革に着手できたのが53歳のときであり、これも結局は既得権益の猛反発をくらって頓挫、孔子は失脚し、再び55歳のときに放浪の旅に出るのである。ぜんぜん、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、じゃないし~とツッコミを入れたくなる。

しかし、その後3度も襲撃されて、命の危険にさらされても、周りから評価されなくても、孔子は「意気阻喪することなく、理想社会の到来を期して弟子たちを励まし、不屈の精神力をもって長い旅を継続した。恐るべき強靭さというほかない。」(p.47-48)

ちなみに孔子が長旅に終止符をうったのは68歳のとき。昔の68歳だから、今の感覚でいうと、何度も起業あるいは選挙に立候補しても結果は出ず、80過ぎまでチャレンジし続けた、その後は弟子の育成と古典の編集に専念して世を去った、という感じだ。そんな人が、今の世か近い歴史の中にいただろうか?

これを見ていると、世に出て成功するかどうかは別として、孔子は天命を悟っていたのかなあとも感じる。まさに
「五十にして天命を知る」である。

それから、誰もが知っている「朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」も、上記のような孔子の放浪の一生を思えば、納得の一言。権力や金を握ったときに誰かが訪ねてくるのではなくて、自分が浮かばれないときに友達が来て、仲良く酒を酌み交わしながら見果てぬ夢を語る、そんなシーンに近いのではないか?

さらに
「人知らず、而(しかう)して慍(いか)らず、亦君子ならずや。」(
人が自分のことを知らなくても、全く気にならない。
 そのような人こそ君子というものである。)と続くのだが、孔子の生き方は、まさにこの論語の最初の言葉が象徴的に語っている。

このように、論語の有名なセリフひとつとっても、その人の生き方を通じて見ていると、ちょっと別の角度からも考えられるし、また感銘を受ける迫力が全然違ってくる。今日紹介していない人物の歴史もすごく面白いのだが、それはまた今度の機会に。

学んで時に之を習う。
亦説(よろこ)ばしからずや。


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