妹尾昌俊アイデアノート

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(読書ノート)サラバ!

直木賞をとって今もっとも売れている本のひとつ、西加奈子さんの『サラバ!』は、僕にとって、とても好きな一冊となった。

本、ましてや小説なんて、読者によって様々な楽しみ方、読み方があると思うけれど、この作品は、日本人のクセをよくあぶり出していると思う。ハッとする描写がところどころにある。

本書のテーマ、モチーフはなにか?
以下、ストーリーのネタばれ的なことは書かないが、読んでからのほうがよいという方はご注意を。

サラバ! 上/小学館
¥1,728
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最終章の「あたなが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」というタイトルが象徴している、と思う。つまり、自分のなかに軸(本書では”体の幹”)をもつこと、自分の生き方は自分が決めるということについて、これほど具体的に考えさせてくれる本はそうないだろう。

たとえば、本書ではネットでつながり、情報が増えることで、かえって自分の中の軸が揺れやすくなることを述べていると思う。ネット炎上のことを”いなごの襲来”と述べているが、これは、岡田斗司夫さんが容易に他人の言動になびく風潮を”イワシ化する社会”と呼んでいたのに近い。周りの空気を読むことに大変気を使う日本社会、他人の意見にのっかることで安心する人々、そこを暗にちくっと刺しているように感じた。

また、物語の途中で主人公の僕はある彼女に、あなたは「いつも頑張ってる人のことを見下している。」と言われるシーンや、次の記述も印象的だ。

僕には分かっていた。僕だって、そう思っていた。自分はいつまでそうしているつもりなのだろうか。自ら為すことなく、人間関係を常に相手のせいにし、じっと何かを待つだけの、この生活を、いつまで続けるつもりなのだろうか。(下巻、p.239)

頑張ることに冷めているのは、現代の特徴なのだろうか、昔からなのかはわからないけれど、”俺はまだ本気出していないだけ”(というとても面白いマンガ)にも近いのではないか。つまり、自分は本気出していない、頑張っていないというのは、他人と比べてたいしたことをやっていない、だらしない自分への言い訳であり、自己防衛の手段でもある。そして、じゃあ自分は何か本気になれるもの、他人にどう思われようが一生懸命なれるようなものがあるかと言えば、ない、という現実から逃げているだけ。
要は自分の軸が定まらないのだ。

本書で随所に登場する対比にも注目だ。行動的で個性的だが、わけのわからない言動が多く、日本の学校にとてもなじめない姉と、受け身的で、周りの空気に溶け込もうと常に注意を払う僕。自己中心的で、人からもらったお金で楽しむことも気にしない母と、家族につくし、自分のためにはほとんどお金を使おうとしない父。

一見まるっきり違う、バラバラな家族が(もっと言えば、人は人と)分かりあえることはできるのか?という点も本書のテーマのひとつかもしれない。そして、自分の軸を探している、ということが分かりあえる起点(バラバラな家族の共通点)となるのではないか、そんなメッセージを感じた。

上下巻で計700ページ近いが、最後の2章がとくに読みごたえがあると思う、買った方はぜひ最後まで。

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