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(読書ノート)大田堯・寺脇研が戦後教育を語り合う

戦後70年のこの夏に読むのに、なかなかいい本だと思います。「大田堯・寺脇研が戦後教育を語り合う」はタイトル通り、教育学の大家にして、戦前の教育を肌で知る世代(現在97歳でしょうか)の大田先生と、ゆとり教育生涯学習を広げたマスター文部省の寺脇さんとの対談本。

テーマは、教育委員会制度、全国学力テスト、教科書問題、地域の教育力など多岐にわたります。今回のような対談は、戦後教育の概観をつかむいくつかの視点を提供してくれている、貴重な記録と言えそう。

僕にとってとくに興味深かった点をちょっとだけコメントを入れてメモします。

○大田:戦前の学力テストは、徴兵検査のために実施されたもの、1905年~1942年まで。「君たちは、誰のために身体を丈夫にしなくてはなりませんか」というような問題も出されていた。模範解答としては「国のため、天皇陛下のため」。国家統制の下に軍事と教育が結びついていた。
(p.36-38)

(妹尾コメント)学力テストには、全国一斉や定点観測であるからこそよく分析できる利点がある反面、こうした活用もされる危険性があるということはよく認識しておきたいと思いました。

○大田:我が国の「近代化」の下には、一斉に画一に人間を教化していくという負の遺産の思想性が根付いている。(p39)

○大田:人間の学習のためには、いろんな種類のものがあっていい。たとえば、「新しい歴史教科書をつくる会」のものに反対の教師であっても、1冊くらいは教室のどこかにそれを置くくらいのゆとりがあってもいい。(p.58)

(妹尾コメ)多様性を大事にするうえで、とてもいい例だと思います。教育や学習とは、本来、いろんな見方や考え方があるんだなと考えられるようになることにひとつのゴールがあるように思います。”これは正しい、あれは間違い”といった思想では狭い。

○大田:戦後中学までを義務教育にするという制度改革を(GHQが)行うのですが、これに対する国民の関心は、憲法などよりはるかに強いものでした。みんなが中学校まで行けるんだというこの制度改革は、地域の財政に重い負担をかけるにもかからず「村にも中学校ができる」と、国民的支持をほとんど得たように思います。(p.93)

(妹尾コメ)たしか、岩波新書の木村元「学校の戦後史」にも似た話が出ていて、「
戦後の新制中学校を義務教育化したのは、世界でもとても珍しく(例としてはアメリカくらいで、他の国は義務教育といえば小学校まで)、ある意味、壮大な実験」でした。
よく明治維新についてすごい改革だと言われますが、この中学校の義務教育化も負けずにすごい改革だと思います。


○寺脇:(1993年~96年までの広島県教育長のとき)校長の人事について言えば、高校の序列がそのまま校長の序列になっていた。それを崩すために、力のある校長は過大の多い学校へ行ってもらいました。(p.110)

(妹尾コメ)この発想いいですね、Teach for Americaも力のある教師を困難校に派遣しますよね。

○寺脇:(広島県教育長のとき)高校入学適格者主義というのをやめる。これは全国でも初めて。学力が低い子、障がいを持った子、素行の悪い子も、全て受け入れると。そういう方針を出した。
しかし、私がいなくなったら、元の木阿弥。適格者主義に戻ってしまいました。
(p.110-111)

(妹尾コメ)いまでいう、インクルーシブ教育ですね。しかし、校長の人事といい、この高校入試改革といい、寺脇さんの推進力はすごいですね。反発も多かったのではないでしょうか?それで異動すると引き継がれないというのも、、、、よく聞く話ではあります。

○大田:「地域」は実に曖昧なものですから、「地域」とは何か定義するのは難しい。私は、今の社会状況の中にあっては、その子が五感で触れることができるところ、それを一応「地域」と考えてみてはどうかと考えています。
(p.144-145)

(妹尾コメ)この指摘はいろいろ考えさせられます。この個所に限らず、大田さんと寺脇さんに共通するのは、子どもがどうかを常に問うこと。学校は忙しいからとか、国が言うから、地域との連携は必要だよねといった短絡的な発想では、上記のような地域の捉え方は出てこないと思います。


お二人の考え方には、ちょっと違うんじゃないかな、そんなに言い切れるものなのかなと疑問な点もいくつかあります(特に学力テスト批判のところなど)が、以上のとおり、心に残る話も多くありました。

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