妹尾昌俊アイデアノート

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(読書ノート)日本人はどこから来たのか?

海部陽介さんの『日本人はどこから来たのか?』を一気に読んだ。

人類の誕生の地はアフリカというのはよく知られている。では、私たち日本人の祖先はどこから来たのか?大陸からと言っても、いつ、どこから、どんな道を経て?道中ではどんな苦難やチャレンジがあったのだろうか?

本書は、こうした人類のグレートジャーニーを追跡したドキュメンタリーか、はたまた謎解きの推理小説を読むかのような、エキサイティングな一冊だ。はっきり言って、すごく面白かった。とても平易な文体で書かれており、専門知識ゼロから十二分に楽しめる点もすばらしい。

筆者は定説となっている海岸移住説(人類のユーラシア進出は、アジア南側の海岸線をつたってオーストラリアへ至り、その後かなり遅れて内陸への進出が達成された、というもの)があやしいと断じる。

論より証拠。ユーラシア大陸の遺跡を精査したところ、人類の拡散はアジアの南へも北へも、同時爆発的に行ったものとの仮説のほうが信憑性があると解説する。本書p26の地図(遺跡と年代を世界地図のプロットしたもの)は、そのことを雄弁に語る。ちなみに、シベリア南部には4万5千年前の人の骨が発見されていることも、海岸移住説を否定する。極寒の地に人類は果敢にチャレンジしていたのだ。

話を日本に戻すと、旧石器時代の遺跡は3万8千年前から突如として爆発的に増える。つまり、この時期に日本人の祖先が日本列島に移り住んできたと思われる。では、どこから?

本書のp202、203に要約されている。詳しくは本書を読んでからのお楽しみかもしれないが、引用する。

かつてアジア南北のルートを別々にたどり、それぞれ違う困難をくぐり抜けてきた兄弟姉妹が、再会をとげた舞台の1つ。それが後期旧石器時代の日本列島だった。ただし西アジアで別れてから既に1万年の時が経過しており、再会した彼ら自身は、互いが血を分けた兄弟姉妹であることに気づきようがなかったのだが・・・・・。

最初に日本へやってきた人々は対馬の海を越えたが、南からやってきた兄弟姉妹は、人類の歴史に残るようなきわめて困難な航海にチャレンジし、その末に琉球列島に拡散した。しかし3つのルート(引用者注:対馬琉球、シベリアと陸続きだった北海道)から渡来した彼らの歴史は、列島にたどり着いて終わるのでなく、その後、大陸からの新たな渡来民や列島内での移住を経て、当初の集団構造は変化していった。



つまり、ものすごい距離と時間と苦難を乗り越えた祖先たち。そのDNAの記憶は、今の私たちの中にも残っているかもしれない、というのは、なにかちょっと嬉しい気もする。

少し蛇足すると、筆者の研究アプローチにも共感した。日本人について考えるのにも、日本列島の範囲のことだけ見ていたのでは、これだけ壮大な物語は分からない。また、考古学、人類学はもちろん、生物や航海についての知識など様々な学問や実践の成果をミックスして仮説構築と検証作業を行っている。こうした姿勢は自分も見習わねばと思ったし、何よりめちゃ楽しい研究をしているな、この人~と思った。多くの日本人に本書を薦めたい。


日本人はどこから来たのか?/文藝春秋
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