妹尾昌俊アイデアノート

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(読書ノート)使える脳の鍛え方ー成功する学習の科学

経験と勘からの卒業-科学的に検証された勉強法

どの世界にも”経験と勘”が物を言うということはある。著名な経営者のなかにも、「経営の秘訣はなんですか?」と聞かれて、「最後は度胸です」と言う人もいる。勉強法についてはどうだろうか?自己流だったり、学校や塾の先生に勧められたままでいる人もかなりいるはずだ。そして、本当にその勉強法が効果的かどうかは、自分の経験と勘を頼りにしているのではないか?

本書は、サブタイトルが「成功する学習の科学」とあるとおり、心理学や脳科学などの最新の知見から、かなりの程度確からしい勉強法をふんだんに紹介している(100%確かというものではない。多くが米国の実験結果でもあるので日本とは事情は異なる。しかし、実験して検証している姿勢も素晴らしい)。

多くの学びは誤解されている

教科書や参考書に蛍光マーカーを引き、何度も読み返す、試験前の一夜漬けでがんばる。そんな勉強法は、僕もよくやっていた。しかし、本書によれば、これは誤った(=効果的でない)勉強法の典型例である。誤った勉強法では、知識や情報が記憶の奥底にしまわれてしまい、必要なときに引き出すことができない(たしかに一夜漬けしたことは長期記憶に残りにくいことは多くの人が実感していると思う)。

では、どうすればよいのか?本書で紹介されている効果的な勉強法とは、たとえば次のものだ。

  • 何度もテキストを読み返すよりも、小テストのようなものを課して(自分でやってもよい)思い出す訓練をする。→「想起練習」
  • 1つのことを集中して練習する(or 学ぶ)よりも、何日かして、思い出すのが難しい頃合いで復習するなど、複数回練習する。→「間隔練習」
  • 種類のちがう勉強を交互にする。たとえば、バッティングの練習なら、速球15回、カーブ15回、チェンジアップ15回とやるよりも、球種をまぜて練習したほうが効果的。→「交互練習」
  • 自分のことばで誰かに説明したり、自分の生活とどうかかわるか考えたりして、教材をすでに知っていることと関連づける。→「精緻化」
  • 答えや解き方を教わる前に自力で試行錯誤する。→「生成練習」

面白い実験例もたくさん紹介されている。児童を2グループに分けて、ひとつのグループ(A)は90㎝離れたところから何度も練習した。もうひとつのグループ(B)は、60㎝と120㎝離れたところから練習した。3か月後、90㎝離れたところから玉入れのテストをしたところ、AよりもBのほうがはるかに成績がよかった。これは一点集中型よりも、交互練習や多様練習のほうが効果的というひとつの例だ。

亀仙人の修行は正しい?

漫画ドラゴンボールの最初のほうに孫悟空クリリン亀仙人の修行を受けるシーン(重い甲羅を背負って)がある。牛乳配達にはじまり、山登りや川で泳ぎ、恐竜に追いかけられるシーンや畑仕事などもあったと思う。今思えば、これは多様練習をしていたわけで、科学的に正しい修行だったわけ。さすが。

教員免許更新制は典型的な集中学習?

漫画の世界と対比しても仕方ないかもしれないが、僕が本書を読んで、典型的に危ない(科学的に効果的な学習とはいえない)例として思い出したのは、教員免許更新のための講習だ。10年間の教員免許を更新するために、30時間以上の講習を受けるのだが、多くは学校の夏季休業中に集中的に学ぶ(インターネット学習を用意する大学もかなりあるようで、それだと何度も学習できるが、何度も学習する動機づけがなされているかは不明)。また、想起練習や精緻化ができている授業ならばよいかもしれないが、どうだろうか?

 

少し脇道にそれたかもしれないが、本書は、学生の方や教師はもちろん、ビジネスパーソンなど幅広い方に参考になる知見と実験例が紹介されている。安易に再読せずに、自分の体験に引き合わせながら読むと、実に面白い。

 

使える脳の鍛え方 成功する学習の科学

使える脳の鍛え方 成功する学習の科学

 

 

◎ベストセラーとなっている「学力の経済学」もあわせて読むとよいと思う。

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