(読書ノート)フレームワークの失敗学
ロジックツリー、SWOT、4Pでちゃんと分析したのに・・・
堀公俊さんの新書『フレームワークの失敗学』は、とても分かりやすく、かつ実用的だ。ロジックツリー、SWOT、4P、PDCA、BSC、などの分析枠組み・ツール(=フレームワーク)について(横文字ばかりだが・・・)、聞いたことがある、使ったことがあるという方もかなりいると思う。少し大きめの書店のビジネス書コーナーを見てみよう。フレームワークを紹介した本がたくさんある。そして、これらを嫌いという人もけっこういる。
こうしたフレームワークは、かなり多くのビジネスパーソンや最近では行政などでも使っているが、組織がギクシャクしてしまったり、どうも腑に落ちない結果になってしまったりした経験はないだろうか?本書では、フレームワークをうまく使えない典型例なシーンを紹介し、なぜうまくいかなかったのか、どういう点にフレームワークの限界があるのかを解説する。
僕も公共セクター向けが多いとはいえ、コンサル業界にいる人間としては、とてもうなづけるものが多かった。コンサルタントにとって、ちょっと種明かし的な本であり、不都合かもしれない真実を誠実に伝えた一冊だと思う。
使用上の注意をよくお読みください
さすがファシリテーターとして第一人者の堀さんだけあって、本書ではわかりやすいたとえ話が盛りだくさんだ。僕が一番気に入ったのは、フレームワークは正しく理解して使う必要があることを述べた次の箇所(p.41-43)。
フレームワークを薬にたとえてみましょう。薬を服用するには一般的に3つの注意事項があります。
(1)正しく服用しないと効果がありません。誤った服用は病気を悪化させる恐れがあります。
(2)よく効く薬には必ず副作用があります。効用と副作用を総合的に判断して服用ください。
(3)最終的に病気を治すのは、薬ではなく本人の力です。安易に薬に頼らず、気力や体力を充実させることを忘れないでください。
フレームワークを使うと、一見恰好がよく、もっともらしい(ロジカルに見える)分析をした気になるのだが、よく注意して使う必要がある。そして、うまく注意すれば、先人の知恵を生かして効率的、効果的に分析できる場合もある。まさに薬と似ている。
たとえば、ロジックツリーはおなじみのツールで、ロジカルシンキング研修のたぐいを受けたビジネスパーソンも多いと思う。ロジックツリーとは要因を分解していくもので、たとえば、少子化の要因は、①出生率の低下です、では不十分だ。②子供を産む年齢の女性の人口が減ったという点もある。そしてロジックツリーでは、出生率の低下はさらに理由1、2、3に分けられて・・・と因数分解していく。
しかし、要因同士のつながりに重要なヒントがある場合もある。まさに少子化のような社会問題の多くは、複数の要因が絡み合っているから、やっかいだ。そういう分析をロジックツリーはあまり得意としない(ちゃんと使える人はその点も留意して使うだろうが)。こうした点も本書を読めば、実感できると思う。
フレームワーク否定ではない
本書のメインメッセージは、「フレームワークを使うな」ではない。むしろどんどん使ってうまく分析や考察を発展させてほしいが、薬のたとえのとおり、注意して使えよ、である。
特にSWOTには注意しようね
僕が公共セクター、とくに行政や学校向けの調査や研修などをしていると、前からとても気になっていたのがSWOT分析だ。〇〇計画をつくるときに、たびたび登場する。しかし、本書にも似た例があるが、次のような残念な使い方もある。
- 参加者の思い付きだけで列挙して、分析した気になっている(データ上の根拠が希薄)。特に課長級などエライ人が集まった会議でSWOTをやると、彼らはよく知っているからという暗黙の前提で、正当化されてしまい、データを見る努力を飛ばしてしまうことがある。
- 機会や脅威が高齢化、グローバル化による工場移転など、ありきたりなものにとどまって、クロス分析しても新鮮味がない。
- KJ法で似たものを集めたり、SWOTクロス分析したり、整理することに力と時間が割かれ、肝心の中身が本質論にいかない。
特に学校などでは、こうしたフレームワークには”うぶ”なので、行政以上に注意が必要だ。学校向けのある組織マネジメント研修で、ちょっとSWOT分析をして学校の戦略やビジョンを作った気になっているようなのを見たのだが、本当にそれでよいのか?と強く感じた。
SWOTでただちに筋のよい戦略が出てくるほど、甘くない。SWOTにとらわれずに幅広くアイデア出しをしたり、多様なステークホルダーと対話したり、数値化したもの、しないもの様々なデータを見たりしたうえで、戦略アイデアを練る、その後で(ないし議論の整理の過程のひとつで)思考のチェックとしてSWOTをやる、というほうが僕は有用なシーンも多いと思う。しかし、そうしたことを言ってくれる人は、たぶん、それほど多くないのかもしれない。。。
以上のとおり、フレームワークの効果と限界、使用上の注意をよくよく理解できる優れた一冊。企業の方だけでなく、公共セクターの方にこそ、一読オススメしたい。
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