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妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

「本当の学校事務の話をしよう」お金の流れから学校教育を見る最適な一冊

学校づくり

学校教育について、世の中には、ほんとたくさんの論調がある。子どもたちにもっとこんな教育を受けさせたい、今の教育のままじゃダメだ、教師はもっとしっかりしてほしいなどなど。百家争鳴とはまさにこのこと(僕もその端くれかもしれない)。しかし、管見の限りでは、多くの論者が重要なことを見過ごしている(あるいは過小評価している)ように見える。

それは、カネのことだ。当たり前だが、いくらよい教育をしたい、子どもたちや学校の様々な問題をなんとか解決したいと言っても、多くの場合、それなりのお金がかかる。しかし、教育改革や魅力的な学校づくりを主張する議論では往々にして、理想が高い反面で、どうやって資金を工面するかについては雑になってはいないだろうか?

教育に関わる公的支出がOECD平均並みになればとか、既存施策を見直して財源をねん出するなど、マクロなことは言うのだが、具体性が乏しい、と言えば言い過ぎだろうか?

※一例として、教育再生実行会議の第八次提言を読んでみよう(平成27年7月)。

 

本書、柳澤靖明さんの『本当の学校事務の話をしよう―広がる職分とこれからの公教育』を読むと、小中学校を具体的なお金の視点から見つめなおすことができる。

義務教育は無償とされているのに、なぜ教材や給食、就学旅行、卒業アルバムなどなどに家庭のお金がかかるのか?家庭の経済環境が厳しいところや子どもの貧困問題も深刻化する中、本来はもっと公的に賄い、家庭負担を減らせるのではないか?そんな問題意識を高めてくれる本だ。知人の本なので、ひいき目で見ているかもしれないけれど、事務職員の方だけでなく、教員の方にも、義務教育を支援したい方にも強くおススメする。

本当の学校事務の話をしよう: ひろがる職分とこれからの公教育

本当の学校事務の話をしよう: ひろがる職分とこれからの公教育

 

学校の事務職員と聞いて、そうなじみのある人は多くないかもしれない。著者の柳澤さんは30代の現役の事務職員。本書の冒頭でも、事務職員は”最初に出会って最初に忘れられる存在”になってしまいがちとある。しかし、学校の経費処理といった事務にとどまらず、財務マネジメントも担っており、企業で言うとCEOやCOOに次ぐポジションであるCFOに近い役回りもできる。

本書は4章構成でどれも読みごたえがあるが、僕が特に好きなのは財務を扱った2章だ。公費(=税金)負担する部分と私費(=主には家庭)負担する部分の境界は、実は曖昧である、というのは学校で務める人には常識的かもしれないが、僕はほとんど知らなかった。

公費ではいろいろな手続きで時間も手間もかかるが、私費負担だと家庭から集金してしまえばよいので(未納などの問題はあるが)、ついつい勝手のよい私費負担に学校は流れてしまいがちだという。本書では、そんな中、柳澤さんが私費負担を減らせるように、公費の部分も含めて様々な工夫をしてきたプロセスが描かれている。

例えば、算数セットは私費負担にするのがよいか?受益者負担という考え方で、自宅に持ち帰るものは私費でという基準をもつ例も多いようだが、算数セットは自宅に持って帰ってもどれだけの子どもがやるんだ?メインは授業中でしょ、だったら、私費である理由はないんじゃないか?といった問題提起がある。ほか、技術の時間の木工の教材は?図工の版画の板は?生徒の名札は?など、具体的な話が盛りだくさんだ。

 事務職員は、算数の授業をするわけではないにしても、算数セットを公費で買うか私費で買うかという議論には加わるべきだ。(p.57)

 この指摘にもうなずいた。今年はこのくらいの教材費の予算が認められています、公費で足りない部分は私費でお願いします、という仕事の仕方だけでは改善は生まれない。

小3~小6の理科の全ての単元について、ねらいや目標を踏まえて教材を提案した(あわせて価格情報も)という事務職員の研究会での取組や、学校で、教材の効果を検証するシートを教職員で記入してもらい振り返りの場をもったことなどが紹介されている(p.59-60、106-110)。これらはぜひ各地で進めてほしい。

事務職員は各学校に1人という配置が多いが、ヨコのつながりを強めて教材研究などをカリキュラム研究とあわせて進める、そして教員もいっしょに必要な教材を見直していけると、限られた公費の改善になる。また、効率化だけではなく、よりよい教育環境整備や授業改善にもつながっていく。このあたりは、事務職員の今後の重要な役割として示唆が多いように思う。

少し今後(2冊目?)のためのリクエストをするとすれば、事務職員の財務面からの気づきをどう管理職らとコミュニケーションして学校全体の運営に活かしていくかや、教材などはある程度学校固有の問題ではないので、優れた実践やノウハウをどう他の学校や地域に広げていくかの話ももっと聞きたいところ。

それから、本書は、”かゆいところに手が届く”本でもある。シックハウス症候群のように、シックスクールという問題があることや、安価だからといって海外での児童労働で作られたかもしれないサッカーボールを購入するのでよいのかなど、非常に身近で具体的だが、ともすれば無視されてきた問題を扱ってくれている。教育委員会の方も、財政が厳しい中がんばっていらっしゃるが、本書を読むといろいろ考えさせられると思う。

最後に、印象的だった箇所を引用する。これにドキッとする教員の方には、本書を読んでほしいなと思う。当たり前のことかもしれないが、大切なこと。

年間指導計画には、一般的に予算の裏づけが書かれておらず、多くの場合は予算措置が検討されていない段階で企画案が承認され、実行に移される。そして、あとから必要なものが出てきて、「おねだり」がはじまる。(p.60)

 

本来、授業を計画するためには、「指導案」だけではなく、当然「予算案」も必要になる。(p.68)