妹尾昌俊アイデアノート

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妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

2020年の大学入試改革で本当に大きく変わるのか?

学校づくり ソーシャルなこと

2020年に大学入試センター試験が廃止され、新しい共通テストに切り替わる。これは学習塾や予備校の存続にかかわる大きな改革だ、受験生を控える子をもつ親や高校生も普通の塾通いのままでよいのか考えておくべきだ、という論調もたびたび目にするようになった。

しかし、本当に言われるほど、大きな変化になるのだろうか?

僕は大学入試や選抜試験の専門家ではないけれども、こうした煽り、あるいは期待には、かなり疑問がある。そのことについて今日は少し書いてみたい。

なぜセンター試験は廃止になるのか?

まずは、なぜ大学入試改革なのか。文科省の審議会の座長をした安西先生に聞くのが一番だろう。以下の毎日新聞のインタビュー記事がけっこう詳細だ。

http://mainichi.jp/articles/20160316/ddm/004/070/005000c

一部引用する。

現在のセンター試験のような多肢選択式のテストの場合、問題の解き方は与えられた選択肢 の中から正解を一つ見つける、という方法にな りがちです。すると、勉強の仕方もそれに合わせた形になってしまいます。・・・
これから労働生産性が低迷し、グローバル化が進むなど厳しい時代を生きていくために は、主体性を持って問題に取り組み、文章を書いたり図を描いたりして自ら答えを見つける 総合力が求められる。そうした力は「大学の個別入試でみればいい」という指摘もあるが、 国の共通テストでやることに意味があります。

 

つまり、いまのセンター試験のように、知識を〇×式で試すだけではこれからの時代を生きる力として不十分だという認識があるようだ。そこで、新しい共通テストでは思考力・判断力・表現力をより求めるようにしようという発想で、一部に記述式を導入する。ただし、記述式といっても、当面導入される予定なのは、国語と数学だけという点は覚えておいてほしい。

もう少し、安西先生の記事から引用する。

記述式問題なら思考力や表現力を評価できます。すでに公表された問題イメー ジを見てほしいが、例えば、あるテーマに関する1400字程度の新聞記事を読んで自分の 考えをまとめる、というような問題です。
国の新テストで記述式問題を導入すれば、高校教育が変わることが期待できます。入試だけの改革ではなく、教育改革なのです。

と大きな期待が読み取れる。

しかし、いくつか素朴な疑問が浮かぶのは、僕だけだろうか?

思考力・判断力・表現力が重要なのは今もでしょ?

ひとつ目の素朴な疑問は「なにを悠長な」ということだ。2020年に一部の識者がいうような大きな変革が起きたとしても、いまの高校生は救われないではないか?2020年のテストの対象となるのは、今の中2の子たちなのだから。

そもそも、思考力・判断力・表現力について、次期学習指導要領のキーワードのように一部で言われているが、大きなウソである。現行の学習指導要領にも大きく出ているので、ちらっと読んでほしい。

学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,生徒に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。

この一節は、高校の指導要領の第1章総則の最初のところにある。つまり、これまでも思考力・判断力・表現力は大事だとされてきた。それが十分できていないとすれば、本当にセンター試験だけのせいなのか?あるいは、大学入試の関係者がもっと思考力や表現力を試す試験がしたいと思っているのに、できていないとすれば、それはなぜなのか?

そのあたりの検証がかなり甘いのではないか?

現状で思考力等を試す試験ができていないとすれば、それはなぜなのか、この疑問の答えとして、次のことが考えられる。

  1. 思考力・判断力・表現力を試すのは手間がかかり過ぎるので、やりたいけど、なかなかできないでいる。
  2. 思考力・判断力・表現力を試す必要がそれほどない。うちの大学ではそれほど高尚なことはやるつもりはないのでというパターン。あるいは、ある程度基礎学力を測れば、その人の思考力もある程度は相関するので、わざわざ手間のかかることをやる必要なしというパターン。

 

記述式は採点が大変過ぎて、結局は大したものはできないかも

先ほどの仮説1(手間がかかり過ぎる)については、さすがに国も大学もよく認識しているようだ。センター試験に代わる新テストの時期や内容をめぐって、最近大いに議論がなされいる。ちょうど今日もこんなニュースが飛んでいる。

www.nikkei.com

あるいは東京新聞に掲載の表がうまく要約してくれている。

写真

www.tokyo-np.co.jp

大学の採点等の負担が少ないのは、80文字以下程度の設問にするという案だ。とはいえ、80文字以上だとしても、いずれにしても、国語で1問ずつの出題予定だという。ないよりは大きいと思うけど、これで大改革と本当に呼べるのだろうか?

おそらくいまの受験勉強の延長のようなところはある程度は続く、と考えておいたほうが安全だと感じる。

 

記述式には大変な手間がかかる。次の資料は、文科省の高大接続システム改革会議「最終報告」の参考資料にある。この資料の読み方はとてもわかりにくいのだが、解答文字数が200~300字の長文と80字以内の短文を組み合わせ て計6問出題すると、最長で約2カ月かかるという試算らしい。それも1日に800人が採点して2か月なのである。

 

f:id:senoom:20161105124623p:plain

 

 本当に50万人相手に考えることなのか?

200、300文字の記述式試験を一部に入れた場合(試験の全部じゃないよ、ほんの一部に)、800人が採点して2か月もかかりかねないのは、受験者がいまのセンター試験では多いからだ。この試算でも53万人が受験すると仮定している。

そうすると、先ほど述べた2つ目の仮説が頭をよぎる。つまり、思考力等をしっかり試したい大学と、そこまで見る必要がない大学とは、分かれるのではないか?

みんながみんなに試験しようとするから、スケジュール上の無理や大きなコスト(税金なり家庭の負担)がかかるのである。大学入試の目的は思考力の養成ではない。入学希望者の選抜であるのに、どうも、欲張った改革をしようとしているようにも見える。

大学の対応は5種類に分かれる?

関連するのは、先に引用した今日のニュースだ。国語の記述式問題を難易度が高いのと中程度で分けるという案である。仮にこの案が通った場合、交通整理すると、大学は少なくとも5タイプに分かれる。

①大学の個別試験でも記述式を課して、新共通テストでも長いほうの記述式を課す。

②大学の個別試験では記述式はやらないが、新共通テストでは長いほうの記述式を課す。

③大学の個別試験で記述式はやらないが、新共通テストでは短いほうの記述式を課す。

④大学の個別試験でも記述式を課して、新共通テストでも短いほうの記述式を課す。

⑤新共通テストを導入しないで、大学の個別試験のみでいく。

 

①は、共通テストと個別入試の両方で思考力等を試そうとする、かなり気合に入った大学ということだ。センター試験がかわる効果は少しはあるだろうが、こういう大学は今でもしっかり個別試験でむずかしい入試問題をやっているだろうから、受験生にとって今とすごく変わるかと言えば、疑問が残る。

③の場合は、ちょっとは記述式で試すことができるが、効果は限定的だろう。

となると、大学入試改革で比較的影響が大きいのは②の場合だろうと思う。このタイプがどのくらいになるのか、ひとつ注目だろう。

興味深いのは④だ。この案は共通テストで短い記述式しか課さないのに、個別試験で記述式をやるというのは、一見矛盾しているように見える。しかし、仮に僕が東大や京大のような難関大学の入試担当者だったとしたら、④を採用すると思う。なぜなら、①だと共通テストの記述式を自分たちで採点する手間がかかってやっかいだ。どうせ自分たちの個別試験で思考力等はしっかり試すので、足キリのために共通テストは使う、だから手間のかかりにくい④を選ぶ。

この④の場合は、現行とそれほど変わらない、だから2020年の大改革にはならない。

 

以上、ごじゃごじゃ書いてきたけれど、やはり採点の手間や大学側の予想される反応を考えると、現行からどれほどの改革となるのかは疑問が残る。もちろん入試が変われば高校教育が変わるという側面は否定できないけれど、もっとほかの方法も併せて考えていかないといけない気が一層した。

◎関連記事 こちらの本も参考に

bookfort.hatenablog.com

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