妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

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【忙しい学校 どうする?】印刷、集金・支払い業務は教員の手から離そう

先日、岡山県の美咲町の加美小学校を訪問しました。

岡山県では、国や全国のうごきに先がけて、教師業務アシスタントの活用を進めています。そのなかでも、加美小の取り組みはとても参考になります。

学校全体でみなさん協力して取り組んでいますが、とくにキーパーソンたちは、こちら↓ 

左から、景山校長、アシスタントの池田さん、(美咲町の名前にふさわしく美しい方々に囲まれて機嫌のよい)妹尾、事務職員の大天さんです。

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学校ではみんな、印刷に時間を使っている

まず、教師業務アシスタントってなに?について。

ざっくりいうと、学校の先生たちが担ってきた業務の一部を手伝ってもらう方のことです。ひとつの例は、印刷を代行してくれます。

これは、民間企業の人からすると、そんなたいした仕事に思わないかもしれませんが、小学校や中学校のお子さんがいる方ならわかるはず。

学校には実にプリントや紙でのお知らせが多いですよね。宿題はもちろん、補習に使うもの、授業中に使うプリント、学校からの各種お知らせ(学校便り、学級通信、運動会の案内など)、教育委員会からのお知らせ、懇談会やPTA会合などの案内と出欠確認などなど。

これはこれでもっと削減なり工夫をしていくべきところもありますが(いまの時代メールやウェブで済むという家庭も多い)。紙を打ち出して、児童数や家庭数(兄弟姉妹がいる場合は家庭にひとつという文書もある)を数えて、各学級に配って、と大変な労力を要します。

小学校や中学校、高校は、通常は、秘書的な方や補助的なスタッフはいません。ちょっと大きな会社なら、ちょっとしたことを手伝ってくれるスタッフはいるのではないでしょうか?僕が霞が関の省庁にいたときは非常勤のスタッフの方が印刷などを手伝ってくれていました。

学校の場合、事務職員はいますが、会社でいうところの総務、財務、調達管理などいろんな仕事をこなしており、多くの場合、正直、印刷まで手伝ってあげられません。

なので、一般の教員はもちろん、校長や教頭が平気でコピー機の前でかなりの時間を使うなんてことが、あります。会社で社長や部長がそうしていたら、たぶん驚く人も多いと思いますが、学校はそのあたりのコスト感覚もちがいます。

1人の教員あたり、おそらく印刷に時間を使う時間は1日そう多いわけではないと思いますが、ちょっとしたことも重なると大きな時間となります。それに自分の授業中に明日必要なプリントの印刷をしてくれていたら、どうですか?気持ち的にも楽になります。

教員がお金を扱うしごとを大幅に減らす

教師業務アシスタントの導入は、岡山県や横浜市など、まだ事例は限られています。国もこの仕組みをまねてでしょうか、来年度は関連予算を要求しています。なので、ぜひ手を挙げるといいと思います。

それで、他の事例でも、印刷関連、それから授業準備に必要な機材をとってきたり、セットしたりなどは、アシスタントの業務としてはよくある話です。加美小が工夫しているのは、学校徴収金業務もアシストしていることです。

徴収金ってなに?という方も多いと思います。

公立学校は税金で運営されていますが、正直足りない分や家庭負担でお願いしたいものがあり、集金があります。学級費とか学年費と呼ばれるものも、学校徴収金のひとつです。小さなことでいえば、算数ドリルとか、大きなことでいえば旅行(校外学習かな、正確には)のバス代とか。

年間このくらいかかると一定の予測をたてて、毎月いくらかずつ集めたり(特定の時期に負担が重くなり過ぎないように平準化)、当初予定しなかったことで集金が発生したりもします。

これを口座振替にしている例もありますが、集金袋で児童生徒がもってくるという、昔ながらのスタイルの学校もまだまだ多いと思います(うちの子どもの小学校は集金袋方式でして、3人もおりますと、おつりがないように入れるのがちょっとした手間です)。

で、このお金を扱うというのが、教員にとっては実に神経を使うし、事務もややこしい。もちろん預かったお金をなくしてはいけませんし、誰が払ったかのチェックも必要ですし、集めたお金があっているかの確認も必要(たまに足すとなぜか合計額と実際が合わないとか)、業者ごとへの支払いも必要ですし(場合によっては銀行に振込に行かねばなりませんし)、予定とちがって集めすぎた場合は家庭に返す手続きも発生しますし、決算報告も必要ですし、などなど。

池田さんは、月末など学級費等を集める時期にあると、各クラスをたずねて、集金袋を預かります。その後、金額の確認、提出した人のチェックなどなど、集めた後の工程の作業の多くはやってくれるのです。

もちろん、お金を扱うことですし、丸投げではいけません。管理は担任の役割、全体の所掌は事務職員が行っていますし、管理職の決裁が必要な工程もあります。とはいえ、従来の多くの作業を教員の手から離しています。

これは、アシスタントの池田さんにとっては神経をつかう大変な仕事でしょうが、教員からとっても喜ばれていることのひとつでもあります。

仕事の一部を投げるだけではなく、仕事自体を見直す

大事なポイントがいくつかありますが、加美小で注目するべきは、アシスタントの活用と併せて、学校徴収金のルール(学校のルールを定め、のちに町の要綱に)、書式の統一(学級などによって微妙に様式がちがっていた)、ITの活用(手計算はしない)などを進めている点です。

とくに注目するべきは、なにを徴収金で対応するか、なには公費(学校や自治体の予算)で対応するかを明確にしつつある点です。これは家庭負担の軽減の観点からも重要な取組です。

事務職員の大天さんが「学校事務」(2016年3月号)に書いていることから引用します。

教員とアシスタントの業務を区分していく中で、事務業務の流れや担当、システムなどの見直しを行った。

・・・(中略)・・・

特に会計業務においては、特別支援学級児童、転出入児童の複雑な会計処理や、公費私費の負担区分について、学校としての統一と徹底ができたことも、大きな成果といえる。また、保護者集金によるすべての会計はこのシステムで統一的に管理でき、年度末には、購入した教材の評価も残せるようにした。次年度の購入計画を立てる際の資料も作成できるようになっている。

なにか仕事をお願いする、投げるというだけではなく、業務自体を見直すということですね。企業や行政でもITを導入するときに、業務自体を見直さないとITだけ入れてもダメだ(効果は薄い)と言われます。それと同じです。

事務職員が企画、コーディネートする

加美小では、大天さんがこのような業務の見直しやルール、仕組みづくりを管理職と協力しながらリードしています。財務、会計、書類整備などをよく知る事務職員の強みを活かした、すばらしい仕事のひとつだと思います。

また、長く教員は自前でやってきたため、アシスタントが来ても、なにをお願いできるか、わからないという方もいます。それに、あまり一時期に依頼が集中してもいけません。このあたりのコーディネートも大天さんがしていますし、池田さんは事務の仕方などわからないことがあれば、気軽に大天さんにたずねるということにしているそうです。

このように、一人職や支援するスタッフが孤立しないようにすることも大切なポイントです。

ちょっとした工夫を紹介します。下の写真は、アシスタントにお願いしたいことを教員がメモしてわたすものです。これだと、各先生は〇をつけて、ちょこっと書くだけで済みます(負担軽減のための取り組みが逆に手間を増やしてはいけませんから)。

この短冊を集めたものは池田さんのTo doリストになるということです。

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次の写真は、アシスタントが今日は何時までいて、なにの仕事をしているかをボードに書いたものです。今日は何時ごろまで依頼・相談できるか、こんなこともお願いできるかななどを考える際に参考になります。

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以上はちょっとした工夫なのですが、アシスタントの仕事をやりやすく、また周りも依頼しやすくするための例です。

また、加美小の場合、職員室に事務職員の大天さんもいるので、教員のちょっとしたつぶやきや話から、ニーズを感じとることもできているそうです。そうした事務職員らしい気づきがアシスタントと教員との間をうまく調整する秘訣にもなっているのでしょう。

教師は別のことに時間を使えるようになる

県教育委員会が実施したアンケートや学校評価の結果からも、アシスタント導入の効果は確認できます。依頼することで、教員には計画的な授業準備や教材研究に充てる時間が増えました。遅くまで残る人も減っているそうです。

横浜市教育委員会にも聞いたことがありますが、アシスタントを導入した学校での教員からの評判はとてもいいそうです。

もっとアシスタントは活躍できる!

以上はいくつかの例で、これ以外も池田さんはとてもがんばっています。たとえば、時間があるときは、子どもの九九が覚えられたか聞くなど、学習支援にも関わります。印刷や徴収金など、周りの教員たちにもすごく喜ばれていて、ある先生は、学校を異動したあとがつらくなりそう、とつぶやいていました。

なので、すでにアシスタントも十分忙しいかもしれませんが、僕はお話をうかがって、加美小にかぎらずですけど、こうしたアシスタントはもっと学校で活躍できる場面はありそうだな、とも感じました。

たとえば、岡山県のこの事業の仕組みでは、アシスタントは児童の提出物の採点や添削には携わることができない、となっています。そこは教員の本務として教員がやりなさい、ということなのでしょう。

しかし、OECDのTALIS調査をみると、中学校では、教師は採点や添削にも相当の時間を使っています。週60時間以上という過労死ラインをこえて働く教員は、週5、6時間採点や添削に時間に費やしていて(月換算すると20~25時間ですよ!)、生徒の相談にのる時間より平均的は多い時間を使っているのです。

小学校はあらゆる教科を教えますし、漢字などいろいろありますから、中学校以上に丁寧に丸付けや宿題のチェックをしている先生が多いと思います。放課後の仕事の多く、あるいは自宅に持ち帰って提出物の確認をする、という先生もかなりいると思います。
※このことは、10年前のデータですが、国が実施した教員勤務実態調査からも示されています。

僕は、丸付けや提出物の確認は、アシスタント、あるいは保護者・地域住民で学校支援してくださる方に、多くはお願いし、教員は丸付けした後の結果を眺めて、授業の仕方や個別の子どもへのケアを考える、実施するほうに時間を使うべきだと思います。

このあたりは、賛否あると承知していますが、忙しすぎる学校をどうにかしたいなら、教員から少しでも手離れできるものはするようにしていきたいものです。そして、ありがたいことに、がんばっている先生たちを手伝いたい、子どものためになることをしたい、と思ってくれる方はおそらく、みなさんの近くにかなりいるのです(もちろん、ボランティアや現状の水準の手当のままでよいのか、という議論はしていくべきでしょう)。

今日はそんなことも多く考えられたとてもいい一日でした。

ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。応援していますし、こうした優れた実践が広がるように、僕もいろいろ動きます!

 

◎ちょっと宣伝。直前ですが、2月4日に新潟で「忙しい学校をどうするか」をテーマに研修会を行います。お近くの方はぜひご参加ください。今回レポートしたアシスタントの話もします。

 また、リクエストあれば、ほかの地域でも開催します~

www.kokuchpro.com

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