妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

原発被災地での学校再開に寄せて

少し久しぶりにアップします。ここ2、3週間は、沖縄、岐阜、静岡、千葉、横浜などの研修会で全国走り回っておりました。

先日は、福島の浪江町の校長、教育委員会向けの研修会にも参りました。飯館村や南相馬市の校長らも何名か参加してくださいました。

浪江町では原発事故の影響で震災後、住民は各地に避難を余儀なくされました。今年なって一部地域を除き帰還できるようになったとはいえ、厳しい状況がずっと続いています。

いまは役場の避難先の二本松市に小中学校もありますが、来年4月に浪江町で建物もリニューアルして再開する目標で、準備を進めています。ただし、震災から6年あまり、子どもたちも親も避難先で生活が既にありますから、どれだけの方が戻りたいと思うか、あるいは戻ることができるのか、というところはあります。

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★こちらに新たしい学校のイメージ図などがあります

http://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/12/16426.html

そんななか、新たな学校づくりに向けて、これまで議論と準備を進めてきているわけですが、相談にのり、助言してほしいということで、ぼくは文科省委嘱の学校業務改善アドバイザーのひとりとして、行ってまいりました。

 

原発事故という未曽有の困難にずっと立ち向かってこられた方々を前にして、自分に何が言えるだろうか、正直悩みました。

いろいろ考えた結果、やはり自分の得意なところで関わりたいと思いました。それは、新たな学校づくりに向けたビジョンと戦略をどう立てるかという点です。

具体的には、こんな話をしました。

  • 新しい学校づくりは、これまでの学校教育を見つめなおす大きなチャンスでもある。
  • 震災後、今も、大変な困難に直面してこられたわけだし、正直、新たな学校づくりと言っても、夢や希望ばかりではないという現実もあると思う。しかし、過去の延長線上だけで未来を考えてよいのか、という点は、今一度考えていきたい。
  • よのなかの流れとしては、たとえば、2020年にはセンター試験が廃止され、一部記述式など大きく変わろうとしている。小中高の学習指導要領も大きく変わる。
  • なぜ、そんな動きがあるのだろうか、という点に思いをはせてほしい。言い換えれば、そこまで改革をしたいと考えるほど、従来型の学校教育だけでは不十分、という認識があるからだ。
  • 中教審の学習指導要領についての答申では、こんな一節がある。

解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的にこなしたりすることにとどまらず・・・・主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくために必要な力を身に付け、子供たち一人一人が、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。

  • 従来型の教育、言い換えれば、これまでわたしたちが比較的重きを置いていたことは何か。それは、中教審の答申で言うところの「解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的にこなしたりすること」である。言い換えれば、効率的な情報処理力を磨くこと。
  • これはこれで、これからも大事なことだ。たとえば、ホワイトカラーの多くのビジネスパーソンにとっては、メールを効率的に正確に理解して、処理することは必須だろう。
  • しかし、それだけでは、おもしろくない。というか、今の目の前の子どもたちは21世紀をずっと生きていくかもしれないのだ。中教審のいうところの、後段の部分の力も伸ばしていきたくはないか?
  • すなわち、学び続ける力、自分なりに思考錯誤しながらチャレンジすること、他者と協働しながら問題解決等を図っていくこと、新たなものを生み出すクリエイティビティ―などだ。
  • ここで改めて、浪江町の新たな学校づくりに向けた計画、ここにパンフレットがあるので、それを読んでみよう。

ここで、ぼくは次のスライドを出しました。ミッシングピース。

浪江町の新たな学校づくり構想には決定的に欠けているものがあるのではないか?

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これは、正直、見るひとによっては大変失礼なことを言ったのかもしれません。

みなさん一生懸命に今まで悩みながら、考えてきたわけです。教職員や保護者等との対話もきっとたくさんしたことでしょう。

そんななかで、わずか数時間しか浪江町(正確には避難先の二本松)にいない妹尾に何が分かる?と思われても、仕方ありません。

しかし、よそものだから、敢えて言えることもある、ひょっとしたら役立つこともちょっとはあるかもしれない。そんな思いで敢えて、こういう挑戦的なスライドにしました。

そして、この問いをもとに、浪江町の校長、教育委員会、近隣の市町村の方たちにも考えてもらい、対話型でアイデアを発表してもらいました。

これは別に模範解答があるわけではありませんが、ぼくの言いたかったことは、それ以前のプレゼンで述べたことと関連しています。

つまり、21世紀を生きる子どもたちにどんな力を伸ばしたいのか、そのビジョンの根幹が伝わってこないのではないか、そうお話しました。

パンフレットなので、ある程度は仕方ないのですが、新しい学校づくりでは、これやります、あれも充実させます、だから帰還してきてくださいね、というトーンが強いです。

しかし、教職員の数もエネルギーも限られています。地域協働も進めていく構想ですが、住民の力も有限です。そんななか、やはり、子どもたちのどんな力をみんなで伸ばしていこう、その根幹がしっかりしていないと、限れた力、資源は分散してしまいます。

たとえば、わたしたちも、浪江の方も、嫌と言うほど震災のときに聞いた言葉は「想定外」。浪江の方にとっては、ふざけるなという怒りの感情も出てくる、言葉かもしれません。

しかし、ほぼ確実なのは、21世紀を生きていく今の子どもにとって、何かしらまた「想定外」なことは出遭うであろう、ということ。そんなときにもしなやかに生きていく、または問題解決等に挑戦していくためには、小中学校のうちから、どんな力を高めておくべきでしょうか、そんな問いです。

 

そんな思いを共有しながら、みなさんとお話してきました。微力ながら、応援しています。また訪問したいです。

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 ★『変わる学校、変わらない学校』も引き続きよろしくお願いします。

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変わる学校、変わらない学校―学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道

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