表題の本、おもしろくて一気に読みました。ノーベル賞受賞の報道のときには、はじめ整形外科医を志したものの、手術が下手で(”ジャマナカ”と呼ばれていたこと)基礎研究に転向したことなどは紹介されていましたが、本では、もう少しディープに山中先生の人となりや哲学がわかるような気がします。
帯に中学生から読めるとありましたように、科学に疎い僕でもすんなり読めました。
山中先生と同じように志しても、途中であきらめた方も大勢いるかもしれませんが、僕は彼の生き方や姿勢には、多くの人が共感するものがあり、天才な一握りな人だけができるものとは思えませんでした。詳しくは本を読んでいただくとして、3つのポイントにフォーカスします。
①なんのための仕事か、ぶれない軸を持ち続けている
山中先生が基礎研究に転向したのは、手術が下手だったという事情だけではなく、臨床医でも治せない難病がたくさんあるということを痛感したからとあります。本書のふしぶしに、iPSの技術が将来どんな病気を治すことや、薬の開発に役立つ可能性があるのか、平易に書いているのは、おそらく、ご本人に腹落ちするかたちで、研究の先や理念が見えているからだと思います。
うちの子どもは上が小2ですが、小2に向けて自分の仕事の魅力や社会的な意義を平易に説明するのは、かなり大変です。おそらく、他の仕事でもそうではないでしょうか。自分のなかで相当納得するしごとの意味づけができていないと、分かりやすく、かつワクワク語れないのです。
②量が質を凌駕する
アメリカでの研究中、他人の3倍は働いたと書いていましたが、実験などでたくさん試すなかで、おもわぬ発見があったりすることを、本書でも述べています。スマートとか、天才というのとは一見遠いような、地道なイメージもするエピソードがいくつか紹介されています。
③チームづくりも一流
記者会見でもよくお話されていましたが、iPSの業績は山中先生個人ではなく、弟子や助手のおかげだということを本書でもよく語っておられます。勝手な推測ですが、おそらく、山中先生はチームメイトをやる気、夢中にさせるのも一流なのではないでしょうか。本書でも、一見地味な実験でも、素直に結果に驚いたり、知的興奮を覚えるのは、研究者にとって重要だということが書かれています。おそらく、すごいとか、そのアイデアええなあということを、山中先生はふつうの人よりも大げさちゃうかと思うくらい反応されていて、チームメイトをその気にさせているのでは、と(これは本書には書いていないことなので、僕の勝手な予測)。
いま月1回のペースでアメリカの研究所でも研究されているそうですが、はじめTV会議などでコミュニケーションを試みたものの、実際フェイスツーフェイスで月1回くらいは会ったほうがうまく進む、と書いています。おそらく、これも、チームをやる気にさせるために、TV会議では十分に伝わらない、彼なりの心遣いや迫力があるのかもしれないと思います。
職業を選ばず、子どもから大人まで十分に読みごたえがあり、かつ参考になる本だと思いました。