妹尾昌俊アイデアノート

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三国志好きに最適→三国志運命の十二大決戦

当代随一の三国志のプロが代表する12合戦を解説

先日、中国に三国志の旅ができるといいなと言う友人に、強く勧めたのが、渡邊義浩著『三国志 運命の十二大決戦』。新書でとても読みやすい。マンガでもよいので少しでも三国志の概略を知っている方には、最適な一冊。虎牢関、官渡、赤壁、夷陵、五丈原など三国志を代表する12の合戦の経緯を丁寧に解説している。

三国志 運命の十二大決戦(祥伝社新書457)

三国志 運命の十二大決戦(祥伝社新書457)

 

 本書の魅力を4点に整理する。

第1に、筆者が三国志研究の第一人者であること。早稲田の教授にして、三国志学会の事務局長(こんな学会があるとは!?)。世の中の三国志解説本の中には、この史料をもとにして大丈夫?というものもあるが、その点、本書はかなり安心して読める。

演義はまったくの作り話ではない

第2に、1点目と重なるが、陳寿三国志はもちろん、その注釈などをもとに、おそらくこのあたりが史実に近いのでは、というところが分かる。一方、フィクションの要素が強いとされる三国志演義吉川英治をはじめとする小説や横山光輝のマンガのもと)も、100%作り話というわけでない、ということも本書でよく理解できた。

この点、まず、「はじめに」がめちゃ面白いので、一読されたい。赤壁の戦いで、諸葛亮が敵から矢をたくさんぶんどったという演義の元ネタはここにあった、という解説。

第3に、12合戦は、中国大陸各地のものを扱っている。本書を読めば、旅したい場所が増えること間違いなし。僕が現地を訪問したことがあるのは、赤壁合肥、夷陵(白帝城)くらいなので、まだまだだ。

合戦の中身の解説よりも、至る経緯の解説のほうが面白い

第4に、(これが一番重要かもしれない)本書はタイトルからは想像しにくいけれども、合戦に至る前後関係の解説が優れている。言い換えれば、合戦の解説本というよりは、三国志の主要なターニングポイント(ある合戦がそうなることも多い)の背景の理解を助けてくれる。

ひとつ例をあげる。三国志の中で天下分け目の戦いといえば、赤壁というよりは、官渡の戦いであろう。この戦いで、巨大な勢力を誇っていた袁紹曹操が対抗しえた背景のひとつに、曹操青州兵を組み込んでいたことがある、これは有名だ。

本書では、この軍事的な側面に加えて、この時期の曹操屯田制の特徴(≒経済政策)にも言及する(p.48-49)。

曹操までの屯田制は、兵糧を確保するため、駐屯地で軍隊が戦闘時以外に耕作を行う 軍屯であった。軍屯は、中国の各時代のみならず世界各地で行なわれている。これに対して、曹操は、軍屯だけではなく、一般の農民に土地を与える民屯を行なった。これが、隋唐の均田制の直接的な源流となる新しい制度であり、曹操の死後も財政を支え続ける。

これまでも、・・・土地の所有を等しくしようとする政策は、何回か試みられた。しかし、それらはすべて失敗している。・・・いずれも豪族の大土地所有を制限し、その土地を貧民に分配しようとするものであった。しかし、支配領域の有力者を殺して財産を分配すれば、統治が流動化する可能性があり、そもそも殺せる保証もない。

曹操は、・・・戦乱で荒廃し放棄された土地を整備して流民を呼び寄せ、種籾を与え、耕牛を貸して、かれら自身に稼がせ、その収穫の六割を税として徴収した。社会が不安定である理由は、大土地所有者がいるためではない。流民が生活できないからである。かれらが安定した資産を持てば、共産主義のような平等は必要ない。これが曹操の時代を創造する新しさである。

 この箇所を読むだけでも、小説や人形劇では憎たらしく描かれることの多い、曹操を革新者として見直すきかっけになる。人の好みは自由だが、信長は好きで、曹操は嫌いという人は、ちょっと矛盾しているような気が僕はする。

劉備VS諸葛亮

もうひとつの時代背景の解説で興味深かったのは、劉備諸葛亮の緊張関係である。史実では、諸葛亮劉備についた直後から最高位の軍師というわけではない(まあ、ちょっと考えてみれば、当たり前の話だ)。劉備が法正を重用したのも、諸葛亮の勢力が大きくなりすぎるのを牽制したからでは、という解釈も、うなずける。

ざっくり要約したが、「水魚の交わり」ということわざや従来の小説での描かれ方にはない、微妙な緊張関係が2人の英雄の中にはあったことだろう。こうした点は、内面の話が多いし、検証のしようもないが、三国志をさらに楽しむもとになる。

以上、4点にまとめてみた。今度中国を旅するときは、本書をもっていきたい。