しなやかに生きるのが難しくなっている学校について
またまた、とてもいい教育書に出会った。石川晋さんの『学校でしなやかに生きるということ』と前田康裕さんの『まんがで知る教師の学び』だ。今日は石川さんの本について紹介する(両者は、学び続ける教員をテーマにしているという意味で共通点があり、両方読むことの相乗効果は高い)。
石川さんは北海道の中学校教師。先生についてプロフィールを多く語らなくても、毎年二百数十号も学級通信を出し続け、生徒の誕生日にはその子へのメッセージと詩を学級通信の中で送る(p.29-30)。このエピソードを読んだだけでも、ほんといい先生だなと思う。そんな石川先生が日々の教室や授業のことなどから、考えたこと、大切にしてきたこと、学校や世の中の流れで「ちょっと待てよ」と言いたいことなどを、発信してくれているのが本書なのだ。
なんとか教育はやたら降ってくるし、生徒の抱える現実や家庭環境はどんどん厳しくなっている、親や世間からの学校を見る目はきつい、残業時間も長くなりがち。いわば、様々な逆境に全国の教師はいる。教師が「しなやかに生きる」ことはどんどん難しくなっている。そんな思いが本書のタイトルにはこめられている。
まじめで素直な(従順な)先生に勧めたい
そんななか、僕が強く感じる(心配する)のは、教師の仕事は「こなすことに一生懸命」になりやすくなっている、という現実だ。
- ともかく教科書を最後まで終えよう
- 学力テストの平均点を上げなければというプレッシャーが強いなあ
- 失敗やクレームが出るリスクがあるなら、新しいことはやらないでおこう
- 同僚や管理職と揉めるのは面倒だし、この件は(あまり納得していないけど)口をはさむのはよそう
などなど。彼らが不まじめというわけではない。むしろ、まじめ過ぎるからよけい多忙になるし、こなすことで一杯になる。本書は、そんな先生にも読んでほしい。石川先生の考えや実践がひとつの正解というものではないが(そもそも正解のある世界でもないだろう)、自分とは違った視点(アンチテーゼと言ったら言い過ぎか?)を感じたり、自分の実践をちょっと距離を置いて見直したりする(メタ認知というのかな)きっかけになる。
先生の保守化、保身は、厳しい職場環境の中で、どんどん進んでいる。希望に胸をふくらませて教壇に立ったはずなのに、半年もすれば、教科書に追われ、クレームに震え、同僚の目を気にし、オリジナルな実践、新しいチャレンジを横に置くようになっていく。こういう流れ、結局自らの「らしさ」を相互に消し合っていく悪循環を、どうしたら断っていけるだろうか。 (p.34)
やっかいなのは、教師はみんな好んで上記のようになっているわけでは、おそらくない、という点だ。で、さらにややこしいのは、特色ある学校づくりの推進、アクティブラーニングの充実、挑戦する子を育むなどの文言が、学校の目標や計画、管理職の訓示では語られてしまうことだ。皮肉かと思ってしまう。どうして教師が主体的な学びや多少の失敗を含む試行錯誤のチャレンジができなくて、自ら考え行動する子が育つのだろう?
やや脇道にそれたかもしれないが、本書は学校のなんとも言えないもどかしさを改めて考えさせてくれる。それに、石川先生と生徒(もちろん仮名だが)の顔が見えるような、とても具体的なエッセイであり、学校について語る多くの評論や論文よりも、圧倒的なリアリティ、「ほんまもん」を感じることができると思う。
学校に「遊び」、「余白」を大事にしたい
本書から刺激を受けることは多いのだけれど、書ききれない。(本書を題材に読書会か意見交換の研修をしたい。誰かやりましょう!)教師と生徒との距離、田舎の地方で生きていくということと中学校の役割、教師の自己検閲(表現の自己規制)についてなども印象深いが、これらの点はまた今度に。
本書で共感したことのひとつは、授業中の先生の雑談ってステキだよね、という箇所(p.70-73)。思えば、学校で習ったことの多くは忘れてしまっているけれど、先生の雑談はよく記憶に残っていて、そこにちょっとした生きることへの考え方やヒントがあった、と言えば、言い過ぎだろうか?
アインシュタインの言葉に、こんなのもある。「教育とは、学校で習ったことをすべて忘れた後に残っているものである。」
本書で強調されていることのひとつが、授業中の雑談に象徴されているが、ちょっとした遊び心やゆとりを、学校はもっと大切にしたほうがよいのでは、ということ。教科書を教えることだけに一生懸命になり過ぎたり、多様な考え方を我慢したりではなく、いろいろな情報を、子供たちに、ほどよい距離感をもちながら、もっと伝えるべきではないか、というメッセージだ(と僕は受け取った)。
先日、ある小学校教師でとてもユニークな課外活動を行っている方とお話したのだけれど、その先生も、「余白」や「放課後」の価値をもっと学校や私たちは見直すべきでは、と言っていた。
キュウキュウ、キツキツでは、面白い実践やイノベーティブな取組は生まれにくいのだろう。学校でしなやかに生きるためには、遊びや余白を意図的につくっていくことがもっと必要なのかもしれない。
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