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徳川将軍や大奥の日常 (読書ノート)旧事諮問録

タイムスリップで過去に行くのは、今の科学技術では無理だけれど、これにかなり近い体験ができるのは、当時の人の言ったことや書いたことに触れることだ。

それも、時代によっては、勝者が自慢げに残した書物(典型例が秀吉について書かれた「大かうさまくんきのうち」だろうか?まだ読んだことないから判断できないが・・・)、あるいはお公家さんやお坊さんの日記などしか残っていなくて、多分に情報にバイアスがかかっているケースもある。

この点、今回紹介する「旧事諮問録」は実に興味深い。明治23年~24年に歴史学者たちが、幕末期に幕臣として仕えたひとたちにインタビューした記録なのだ。明治に変わって20年も経ち、このままだと江戸幕府を知る人がみんな死んでしまって、後世に残らないとの危機感からだろう。ほんとにいい仕事をしてくれた、貴重な書物だ。

しかも、インタビュー記録なので、文語体のむずかしさはほとんどなく、現代人にとってもたいへん読みやすい。中学校や高校の教材としてもいけると思った。

20年以上も前のことを正確に思い出すのか、と言われると、僕などはやや自信がないけれど、伝記や日経新聞私の履歴書なども何十年前のことから語るし、無理な話ではあるまい。それに、明治20年代なら、徳川期のことをもう率直に話しやすくなっている頃かもしれない。もっとも、本人が正直に言ったのかどうかは要検証だろうけど。

将軍の日常について小姓をしていた人から聞いたり、幕府の財政について勘定奉行の人から聞いたり、大奥の裏事情(?)については当然大奥で仕えた女中から聞き取っている。要は、当時のことをよく知る、生き証人の記録と言える。

さて、前置きが長くなったが、いくつか特に興味深かったことをメモする。

■将軍の日常や小姓について
○小姓は小間使いをしていればよいのであって、将軍の側にいるとはいえ、政治にはけっして口をはさまない。何か申そうとすれば、それは切腹を覚悟してでのこと。

○将軍の普段着は、以前は新しいものが多かったが、幕府の財政難により、ずいぶん汚れたものもあった。

○将軍はだいたい1日のうち2/3以上は中奥にいる。もう少し大奥にいてもよいのに、と(小姓をしていた人から)言われるくらい。大奥のほうが規律が厳しいので、中奥のほうが落ち着いたのではないか。

○将軍のご飯は、意外と粗末(と小姓に言われるくらい)で、汁物+香の物+肴。大奥でとることもあるが、それは変則で、普通は中奥でとった(=ということは夫婦は別にご飯ということ)。自分で好みのものを出せ、と言うこともなかったという。政務が忙しいときはお昼ご飯も3時くらいになってしまう。お酒も将軍は基本1人でとなるので、あまり飲まなかった模様。


(感想)このように、将軍の暮らしはかなり質素だった。大奥のほうは衣装などにお金を相当かけていたであろうに、将軍ちょっとかわいそう。
忙しくて1人飯の多い、どこかのビジネスマンに近いかも。


■大奥のこと
○御台所は、朝起きるときまってお風呂。天璋院篤姫は朝風呂を欠かすことはなかった。将軍が大奥でお泊りのときは、夕方にも入浴。杉風呂。

○午前中は、風呂→ヘアメイク→朝ごはん→将軍と対面→仏壇で拝む→お昼ごはんと推移。かなり忙しい。反面、午後はかなり暇がある。

○朝ごはんは精進料理の日以外は、豆腐や卵、汁物、鯛かホウボウの焼いたのなどが付く。ただし、魚は一箸むしって食べた後はおかわりとなり、少量。お付きが終始あおいでいるので、かなりアツアツのを食べれる。汁物も火鉢で温める。肉料理はあまりなく、たまに鶏肉があるくらい。

○お酒は古酒で真っ赤なものだったらしい。12代家慶はかなり酒好きだったが、そのあとの将軍はあまり飲まなかった。

○将軍が大奥で寝る頻度は、人による。13代家定(
篤姫のダンナ)は月1か2。

○将軍手つきの女中
御台所との関係は、表だって喧嘩になったりはない。

篤姫は平素から規律がしっかりした方で、調度類は一分一厘の違いもなく配置していた。それから、かなりお酒が好きだった。


(感想)
たしか、
大河ドラマ篤姫のときは、夫婦仲がすごくよいように描かれていたけれど、やはりそれはドラマでのこと。実際は、上記のとおりなので、セックスレスに近かったかもしれない(家定は病弱だったとも伝わる。子はできていない)。

食事は中奥よりは大奥のほうが充実していた模様。ただし、焼き魚がメインで、それも一口、二口食べたらとっかえるという、なんとも、上品なのか、逆に失礼なのか、わからない風習。お酒の記述といい、いずれにしても、現代人は、間違いなく、徳川将軍や大奥よりは贅沢な食事ができている人が多い、と言えるのではないか?さあ、みなさん、今日から明日から、お殿さま、お姫さま以上になったつもりで食事を楽しんではいかがでしょうか?


このように、将軍や大奥の日常生活を垣間見れる、今回紹介しきれないところも含めて、細部が面白い記録。財政担当の役人の証言なども(霞が関にいる者としては特に)面白いのだが、これはまた改めて。当時この企画を進めた学者の方と、現代人がとても容易に読めるようにした岩波文庫に感謝。


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