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妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

日本の学力は世界トップクラスだけど、報道や専門家の言うことは疑おう

学校づくり おススメ

昨日、2015年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果が公表されました。このテストでは、小学校は50か国・地域(約27万人)、中学校は40か国・地域(約25万人)が参加したとても大規模なものです。日本でも148校の小学校4年生約4400人、147校の中学校2年生約4700人が参加したのですから、信ぴょう性は高いとみてよいでしょう。

日本は小中の全教科で平均得点が過去最高を更新したこと、小学生の理科が3位、中学区制の理科が2位となるなど、順位も上がりつつあることなどが報道されています。

しかし、報道されている内容や引用されている専門家のコメントには、かなりあやしい部分もあります。ほんまでっか?っていっぱいツッコミたくなります。

www3.nhk.or.jp

www.jiji.com

①注目するべきは低学力層の子どもが減少傾向にあること。

まず、多くの報道が平均点が上がったと喜んでいることです。統計の初歩ですが、平均だけを見ていると見誤ることはよくあります。よく言われているように、日本の小中学生は「ふたこぶラクダ化現象」が起きています。つまり、学力の上位層と下位層の二極化です。仮に上位層だけが上がっていて平均点を押し上げたのであれば、下位層は心配ですよね。中学生や高校生でも九九ができない、分数が分からないという子もたくさんいます。

この点、今回の結果はグッドニュースとみてよいと思います。次のグラフは日本の子どもたちの算数・数学の点数別の結果の推移です。

<算数・数学の結果>

f:id:senoom:20161130101812p:plain

文科省が述べるとおり、今回、550点未満の層は減少したことが分かります。

同時に、625点以上の高学力層も増えています。これらのことから下位層は減って、上位層は増えているので、平均点は上がっている。ただし、依然として、下位層も約3割いることには注目です。

おととい、効果のある学校づくりなどが専門の鳴門教育大学の久我直人先生と、横浜でコミュニティスクールを12年間なさっている竹原和泉さんとお話していたのですが、次の点で意気投合していました。

  • 学力・学習状況調査の結果などで、学校は平均点に注目しすぎる。県平均や全国平均よりよかったとか、前回と比べて上がっているとか。しかし、もっと意識してほしいのは、平均点に満たない子たちがどうなっているか、その子たちをどうしていきたいかだ。
  • 平均点を大事にする教育は、平均点以下の子を大事にしない教育。

 

※細かい点ですが、なぜこの点数区分なのかは疑問です。500点がこの調査の基準点なのに、500点では区切っていません。また、日本の平均点は、たとえば数学であれば毎回570~580点のあたりで推移していますから、そのへんで区切ったほうが平均点より下の子、上の子と見えやすいと思います。

※データの詳細はこちらにあります。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の調査結果:文部科学省

 

②脱ゆとり教育のせいで学力アップした、は本当か?

専門家のコメントや文科省の分析として、脱ゆとりで教える内容を増やした成果ではないか、と引用されています。これは、本当なのでしょうか?

次の表は日本の子どもたちの平均点の推移です。

f:id:senoom:20161130103416p:plain

今回は中学2年生について見ましょう。2003年に数学が少し下がりますが、おおむね、1995年~2011年までの間、数学は570点前後で、理科は550点前後で横ばい傾向であったことが分かります。

実は「ゆとり教育」をどこからどこまでの期間を指すのかは論者によって異なることもあるので、やっかいなのですが、中学生の授業の時間数(コマ数)を見ると(1コマは50分)、

平成5(1993)年度~ 3150コマ

平成14(2002)年度~ 2940コマ

平成24(2012)年度~ 3045コマ

です。2002年度から授業時数はかなり減りました(教える内容も)から、これをゆとり教育とか、ゆとり世代という人がかなりいます。

※ややこしいことに、2012年度からの学習指導要領で理数科目は2009年度から前倒しで実施された点は注意。

つまり、TIMSSの2003年や2007年の結果は、授業時数が少なかったときの結果です。数学がちょっと下がったとはいえ、大きな低下は見てとれません。また、仮に脱ゆとりが功を奏しているのであれば、前倒しで学習内容を増やしていた2011年の結果も上がっていないといけませんが、そうではありません。

加えて、先ほどの点数別の推移を見ても、数学の下位層の割合は、2003、2007、2011年とほぼ横ばいで推移しています。理科はこの期間、下位層はやや減少傾向です。

ゆとり教育を呼んでも呼ばなくてもよいですが、あまり明確に学習指導要領改訂の影響は見えないのではないでしょうか?

むしろ、別の国際調査で明らかなように、日本の教師は世界一、長時間労働です。限られた授業時間と忙しい毎日の中で、下位層への底上げを含めて、学校はかなり奮闘している、と分析したほうが事実に近いと思います。

③学力は高くても、なぜか劣等感は高い特異な国、ニッポン

実は学力以上に気になるデータがこの調査からは明らかとなっています。

次のグラフは算数・数学は楽しい、得意だと肯定的に回答した子どもたちの割合の推移です。国際的な平均とも比較しています。

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肯定的な回答は増加傾向にあるといえ、日本の子どもたちは、世界トップクラスの学力なのに、楽しい、得意だという子は少ないのです。中学生の数学では6割にも苦手意識をもっているのですから。

これをどう見るか?

”謙虚な国民性の表れ”などと悠長なことは言っていられません。推測されるのは、学校の中や塾、あるいは家庭で、子どもたちはたびたび比べられて生きています。仮に国際的に見て高学力層の子であっても、クラスメイトと比べて、あるいは親には兄弟と比べられて、劣等感をもっている子もいるのかもしれません。

また、テストの点はそこそこ取れても、テストや入試でよい成績をとることが目的化していて、学習することの楽しさや好奇心を育めていない、という学校教育や家庭教育の課題が見え隠れするデータとも解釈できます。

コーチングやアクティブラーニングで著名な本間正人教授は次のように述べています。

私は、社会人としての成功の鍵は「最終学歴」ではなく、「最新学習歴の更新」にあると考えています。 

 「最新学習歴」。つまり、大人になっても興味をもって学び続けているかどうかが大事だというのです。この点、小学生や中学生のころから、数学に限らず、勉強があまり楽しくないな、嫌いだなという子を増やしてしまっては、もったいないですよね。

※本間先生の話は次の本からの引用です。

bookfort.hatenablog.com

まとめます。3つの点で、日本の理数の平均点が上がってよかったね~では安心できない、ということを述べました。

①注目するべきは低学力層の子どもが減少傾向にあること。

②脱ゆとり教育のせいで学力アップした、は本当か?

③学力は高くても、なぜか劣等感は高い特異な国、ニッポン

では、今後どうするか。

いろんな方がさまざまなことを言っていますが(これからも言われていくでしょうが)、今回のデータから示唆されるように、楽しい、得意、あるいは、やればできる、という自己効力感をもつ子を増やしていくように、学校や家庭でしっかり声をかけていくことはひとつの大切な方向性だと思います。

あまり学力テストの結果に一喜一憂せずに、「よくがんばったね、次はこういうのもできるようになるといいね」と、子どもたちを相対評価ではなく、個々に見ていくことだと思います。先日読んだ『GRITやり抜く力』にも似た話が出てきます。育むべきこととして学力以前のことがあるのではないか?ましてや学力テスト結果の平均点を上げることは、ひとつの目安だとしても、ゴールではないだろう。そこをまずしっかり確認したいと思います。

 

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