妹尾昌俊アイデアノート

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【学校のフシギ】新米教師の1年間は条件付き採用というのは理屈に合わない

日ごろ教職員向けの研修などをしていて、教育業界の方とはよく接しているつもりでも、まだまだ知らないことは多いし、フシギだなと思うこともけっこうある。

最近は、多忙化の問題や職場改善、教師の成長について、いくつか提案・実践している。そのなかで、先日の記事でも紹介したが、ある新任教員の自殺について調べていた。

2006年に、⻄東京市の市⽴⼩学校に勤務していた新任女性教員(25歳)が、採用されて半年後の10月に自殺を図り、意識を取り戻さないままその2か月後に亡くなったことについてだ。

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自殺の背景には、いじめ対応など学級運営でのつまずきや、保護者対応が非常に精神的に負担であったことなどが大きいのだが、もうひとつ、ひっかかることがあった。西東京市教育委員会の初任者研修のときに、条件付き採用が1年であることを紹介するときに、市教委の幹部が「休職する人は給与泥棒」、「1年間はクビにできる」とはっきり言ったのだそうだ。

今から10年以上前の話。さすがに、今ではこういう教育委員会はいないであってほしいが、どうだろうか?こうした乱暴な脅しも影響してか、この女性教師は無理をしてでもなるべく休まず、勤務を続けようとしていたふしがある。

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条件付き採用とは、企業でいう試用期間のことで、先生の場合は、身分保障に関する地方公務員法の一部規定が適用されないので、法律で定める事由によらなくとも、任命権者はその職員の降任または免職を行うことができる期間という意味。なので、「1年間はクビにできる」というのは、間違いではないのだろうが、パワハラととられても不思議ではないだろう。

それで、僕は知らなかったのだが、公立小中高の先生の場合、この条件付き採用は、次の法律で決まっている。

  • 地方公務員第22条
    臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、全て条件付のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。
  • 教育公務員特例法第12条
    公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、幼稚園及び幼保連携型認定こども園の教諭、助教諭、保育教諭、助保育教諭及び講師に係る地方公務員法第二十二条第一項 に規定する採用については、同項 中「六月」とあるのは「一年」として同項 の規定を適用する。

つまり、普通の地方公務員は6か月だが、教員は1年が試用期間というわけだ。これは法律で決まっている。

でも、なぜそうなんだろう?

別に教師だけが1年雇ってみないと資質・能力が分からない、というものでもなかろう。だいたい、子どもを評価することが日常の学校なのに。かなり、おかしくないか?と思う。

文科省の審議会の報告によると、次の趣旨らしい。

児童・生徒の教育に直接携わる小学校、中学校、高等学校及び盲学校、聾学校及び養護学校の教諭、助教諭及び講師については、その職務の専門性から6か月間での能力の実証では不十分として、条件附採用期間が1年とされており 
(教育職員養成審議会 「養成と採用・研修との連携の円滑化について」 平成11年12月10日)

ちなみに、直近のデータでは、平成27年度に採用された教員のうち、条件付き採用の後、正式採用とならなかった人は、全国で316人、新採全体の1.03%であるから、99%の人はそのまま正式採用されている(平成25、26年度の数字でもこの割合は約1%)。

※関心のある方は、以下の資料に都道府県、政令市別の結果がある。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/12/21/1380740_06.pdf

 

児童・生徒に直接関わるから、とか、職務の専門性という理屈は、かなりあやしいと個人的には思う。たとえば、公立病院の医師や看護師、薬剤師などは、人の命に係わる仕事だ。変な人がいたのではたまったものじゃないが、試用期間は1年などという特別の規定はなさそうだ(さっと調べただけなので誤解があるかもしれないが)。

だいたい、教師は子どもに多大な影響を与える重要な職だから、じっくり、慎重に、能力等を見極めねばならない、というならば、1年と言わず、さっさと半年以内にやめさせるべき人は退出願いたい。そうでないと、子どもの貴重な1年はどうするというのだろう?

初任者研修が1年間だから、条件付き採用も1年間としている、という説もあるらしい。これも、研修の趣旨と条件付き採用の趣旨はちがうし、一致させねばならない理屈が通っているとは思えない。

 

このことから示唆されるのは、どうも学校教育という世界は、あちらこちらで、タテマエを使い分けているふしがある、ということだ。

仮に、児童・生徒に多大な影響を与える重責を教師は担っている。だから、初任者研修は1年間充実したものをやらないといけない。という理屈ならば、なぜ、その研修中の、正式採用前の教員に、学級担任という影響力がばかでかい仕事を任せるのか???

保護者等の前では、4月当初から、「大丈夫です、この先生は若いけれど、難関な教員採用試験を突破され、学生や講師のときにも学校現場で経験を積まれている方です」みたいなことを言い、その片方では、「1年間はあなた方のこと、ぶっちゃけ、ちょっと不安なのよ」という制度のうえにいる。

たしかに、学級担任等の重責を新採に任せることと、条件付き採用で不適格な人を早めに退職願う制度とは矛盾するわけではない。しかし、バランスが悪いというか、両者の前提とする教師像がちがいする気がする。

むしろ、この1年間の条件付き採用というのは、マイナス効果のほうが大きいのではないか、という気さえしてくる。さすがに冒頭で紹介したようなパワハラ教育委員会はそうはいないかもしれないが、学校のなかでも、新任教員は辞めさせやすいということで、校長が変に強気にでる(ひどい場合はいじめる)ことも出てくるかもしれない。あるいは、新任教員のほうは遠慮して、校長等に意見を言いづらくなる、という委縮効果もあるのではないか?

同じような問題は、非常勤講師などの雇用が安定しない、非正規雇用の教員についても当てはまる話だ。

 

さて、どうしたものか。2つの道があるように思う。

1つ目は、法律改正まではハードルが高すぎるというのであれば、あるいは、現行法の趣旨には賛同するという立場であるならば、お試し期間なのだから、新任教員は副担任にとどめておくなど、きっちりケア・支援をすることだ。担任などの配置は校長裁量でなんとでもなるが、人がいないとなんともできないのだから、教育委員会の人事上の配慮が不可欠だ。

2つ目は、教育公務員特例法第12条はやめてしまう。(ただし、これでも半年は条件付き採用なのだから、4月からいきなり担任でよいのか、という問題は残る。)

 

みなさん、とくに新任教員の方やそれを乗り越えてきた方、教育行政の方はどう思うだろうか?

◎『変わる学校、変わらない学校』引き続きよろしくお願いします~

 

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