ある小学校教師の日常
今日ななめ読みした本にけっこう興味深い、ある小学校教師の日常が綴られていた。
・9:00 1時間目スタート
・9:45 保護者からの電話にかけなおす
・10:45 保護者からのメールをチェックする。欠席している子どもの保護者から、欠席理由を知らせるメールが来ていなかったので、家に電話した。
・11:45 給食では子どもたちが、どのように食べ物を取るかを観察する。摂食障害の検査を受けることになっている子、アレルギーのある子どもや宗教的な制限がある子もいて、教師の注視は欠かせない。
・13:00 今日初めて職員室で同僚とともに休息する。
・15:00 すべての授業が終わると、電子メール連絡網を使って、宿題を忘れた子どもの保護者に連絡した。
・週末は休息につとめることにしているが、日曜日の午後から翌週の準備に忙殺されることも少なくない。
これはある外国の小学校教師のことだ。とはいえ、ここまでだと、そう日本の教師と大きな差はないようにも感じる。日本と違うのは電子メールがよく使われている点だろうか。
が、次の点がすごく違う。
・5月末から、日頃の重労働のごほうびとして、2か月半の夏休みがある。夏休み中は、出勤する必要はない。
2か月半もいいなーと思った。実際、この国で教師は人気の職業のひとつだという。人気の理由は夏休み以外もあるだろうが。
もう一つ違う点が帰宅する時間だ。先生たちの多くは授業が終われば帰宅するのだそうだ。ただし、家で仕事を続けることも多いという。
以上紹介したのは、北川達夫ほか『フィンランドの教育』2016年から。実際、フィンランドのある小学校教諭が日常のことをまとめてくれている。この方の例がどこまで一般的なのかはわからないが、夏休みや指導要領のことなど、一部をのぞいて、思いほか、日本とも似ているなあと感じた。
少し前の本になるが、福田誠治『フィンランドは教師の育て方がすごい』2009年からも関連する箇所を引用しておこう。
・国民文化総合研究所が実施したアンケート調査(2007年)によると、あるフィンランドの教師は7時56分に学校に着く。これは日本もほぼ同じ。ところが、授業終了は14時9分で、学校を出る時間は14時57分。フィンランドの教師の義務は、授業時間のみであり、労働時間のうちその他は自己研修時間と見なされる。そして、その研修は、学校でやってもよく、図書館でやってもよく、どこでやってもよいと社会的に見なされている。(p.15-16)
・夏休みが二カ月半、六月初めから八月半ばまで約70日あり、そのうち3日だけが研修ということになっている。この長期の休みには、教師は有料の「自己啓発セミナー」や海外の成人学校、語学学校などに出かけ、自己研修を行う。というより、自ら人生を楽しむ。家族と外国旅行に出かけたり、ヨットで湖やバルト海をめぐったりする。そのような探求的な生活が、人生への糧になり、授業の糧になる。(p.22-23)
僕はこの最後のところ、「探求的な生活が、人生への糧になり、授業の糧になる」という一節が好きだ。
関連して、ライフネット生命の会長で、ものすごい読書家の出口治明さんの、「人が学ぶ方法は3つあります。 それは、人に会う、本を読む、旅をする(現場に行く)の3つです」というのも共感する。
フィンランドの教師も日常は大変そうだが、いまの日本の教師よりも、おそらく、探求的な生活、経験は豊富なのではないだろうか。これはPISAなど子どもの学力にすぐにあらわれないかもしれないが、子どもの好奇心にも直結してくる話だろうと思う。好奇心や探求心の低い教師からは、そう多くの好奇心をもつ子どもは生まれないだろう。
それから、もうひとつ重要なことは、教師になりたいと思う人が増えるかどうかにも影響するだろう。
先日ある中学校の先生と話していて、次の言葉が響いた。
「総合的な学習の時間が失敗したのは、教師が総合的な人生を送ってこなかったからですよ」
まあ、人間だれしも偏りはあるものだし、時間も限られるし、総合的なんていかないと思うが、多様な経験があるかどうかは大事なように思う。1人でその荷が重いなら、ほかの人(地域や外部の人も含めて)協力・協働していくという方法ももっと考えていくべきかもしれない。
フィンランドの教育~教育システム・教師・学校・授業・メディア教育から読み解く~
- 作者: 北川達夫,中川一史,中橋雄,佐藤幸江,Tarja Malmi-Raike
- 出版社/メーカー: フォーラムA企画
- 発売日: 2016/04/20
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