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妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

良い戦略、悪い戦略 ~あなたの組織は大丈夫か?

学校づくり

2年ほど前の本ですが、リチャード・ルメルト氏の「良い戦略、悪い戦略」を読み返しています。やはり、かなり面白い一冊。氏はUCLAの先生にして、大小、営利・非営利さまざまな団体のコンサルティングを手掛けてきた方。経営戦略の大家と言われているだけあって、その経験に裏打ちされた解説は、鋭いです。

一部、物事そう単純じゃないんじゃない?とつっこみをいれたくなる個所もありますが、「第3章 悪い戦略の四つの特徴」、「第4章 悪い戦略がはびこるのはなぜか」あたりは特に勉強になります。
本書はそのタイトルのとおり、悪い戦略、戦略もどきについて解説している点がとてもよいです。コンサルして失敗した自身の経験なども随所に紹介されている点は、よい戦略の本質について対比して考えるうえでも大変貴重。うちの会社はこんなにうまくいったぜ系の本はたくさんありますが、失敗の研究は少ないですからね(有名なのは野中郁次郎先生らの「失敗の本質」でしょうか)。

読者は自分の会社でも、注目している会社でもよいので、どこかの戦略をイメージしながら読むとよいでしょう。僕は、学校や行政組織の”戦略”に関心があるので、それをイメージしながら読みました。非営利組織の経営や戦略を見直す上でも、かなり例は紹介されていますし、ヒントはたくさん出てきます。いくつか印象に残った個所を、コメント付きで紹介します。

(引用)
悪い戦略が蔓延すると、誰もが影響を被る。目標やスローガンを花火のように打ち上げるだけの政府は、次第に問題解決能力を失っている。企業が打ち出す戦略プランなるものの多くは、希望的観測に過ぎない。また教育機関では、数値目標や基準は豊富にあっても、なぜ成績が振るわないのか、根本原因を把握して対処する姿勢に乏しい。こうした状況を打開するのに、カリスマ的なリーダーや美しいビジョンはいらない。必要なのは、良い戦略である。(p.12)

悪い戦略は、次の四つの特徴から見分けることができる。
●空疎である――戦略構想を語っているように見えるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える。

●重大な問題に取り組まない――見ないふりをするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない。

●目標を戦略ととりちがえている――悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている。
 
●まちがった戦略目標を掲げている――戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものである。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不能だったりすれば、まちがった目標と言わざるを得ない。 (p.49-50)



◎コメント
p12は本書の序章にあたりますが、ここにエッセンスが十分に要約されています。重大な問題から目を背け、希望的観測に過ぎない戦略を立てている戦略が多いという指摘は、少しドキっとします。筆者は、反対に良い戦略の要素として、診断、基本方針、行動が備わっていることと主張していますが、悪い戦略の四つの特徴におおむね共通する背景が、「診断が甘い」または「診断が誤っている」ということではないでしょうか。

具体例として、ロサンゼルスのある区の公立学校の話が本書に出てきます(p.78-82)。州ではAPIという学力テストの指数で学校を評価していますが、この区ではAPIが悪い、成績不振の34校を「重点校」に指定し、そこに的を絞った戦略を立てます。その発想自体は悪くなかったかもしれませんが、しかし、その戦略というのが問題でした。たとえば、「信念・価値観・目標をすべての生徒および保護者と共有する学校・学区のリーダー・チームを発足させ、質の高い教育を実現するために継続的な改善に努める」と書かれていました。

筆者は、「これは、典型的な悪い戦略である」と述べます。なぜならば、「質の高い戦略を実現」できていないのはなぜか、原因究明がまったく行われていないからです。また、「
信念・価値観・目標をすべての生徒および保護者と共有する」とありますが、筆者は、「こういうことを言う人たちは、北朝鮮のように全員が同じ価値観を抱き同じ信念を共にすることが学業成績の向上につながると信じているのだろうか。もっともらしく聞こえるが実際にはあり得ないし望ましくもないこうした目標が、教育界ではいまだに追求されているらしい。」と指摘します。

なんだか、ロサンゼルスの話なのに、日本の話にも近い感じがするのは僕だけでしょうか?どの国も、似た問題を抱えているののかもしれません。日本でも、「確かな学力を付ける」とか、「基礎学力を定着させる」といった言葉が並ぶ学校計画は大変多いです。でも、「なぜ学力が定着してこなかったのか、基礎のどこができていなくて、それはなぜなのか」といった点は書かれていません。なぜそうなるかというと、都合が悪いのでわざと隠しているかといえばそうではないケースも多く、個々の学級担任や教科担任の暗黙知にはあっても、十分診断されたものかどうかは疑わしかったり、本質的な問題の原因を職場で共有されていなかったりするケースのほうが多いような気がします。

また、一見もっともらしい表現で装飾しているが、非現実的な目標を戦略と勘違いしているという指摘も、耳の痛い話です。このロサンゼルスの例では、保護者・地域、学校らがコミュニティを形成し、協力するということも書いていますが、筆者は、学力不振の背景として、家庭が貧しく無秩序な環境に置かれている子どもが多いという点があるのに、「低賃金の労働に従事している疲れ切った親たちが、コミュニティ活動などに参加できるはずはあるまい。そしていまここに列挙したことこそ、良い戦略が認識し、取り組まなければならない問題なのである。」と指摘。しごくもっともな批判です。

(引用)
良い戦略は重要な課題にフォーカスする。となれば当然、たくさんある課題の中から選びとる作業が必要になる。どれかを選んで残りは捨てなければならない。この困難な作業をやらずに済ませようとすると、ごった煮ができあがってしまう。(p.84)

◎コメント
いやはや、ここも耳が痛い一節。筆者は全体と通して、戦略を立てる前に、地に足のついた課題分析をやれ、と述べているのだと思います。課題が焦点化(フォーカス)されるから、取組や行動も焦点化できる、という言われてみれば当たり前のメッセージなんですけれど。課題の焦点化は簡単ではないですよね。

次に、では、なぜこうした悪い戦略が蔓延するのかについて、筆者はさまざまな角度から述べていますが、共感した点として、組織の「慣性」という点を指摘している点です。理科で習った慣性の法則の慣性です。惰性という日本語のほうがしっくりくるかも。筆者は、慣性として、「業務の慣性」(旧来の業務プロセスをなかなか変えようとしにくいこと等)、「文化の慣性」(ちょっとはっきりしない概念ではありますが、学校でもよく”学校文化”といった指摘がされますね)、「委任による慣性」の3つに分類しています。「委任による慣性」とは、顧客から委任されていることによる惰性という意味だと解釈していますが、要は、顧客がそうすぐに他社に乗り換えないため、そこに企業側があぐらをかいてしまうという話。

学校や行政をはじめとする非営利組織では、業務の慣性も文化の慣性も大きそうですが、顧客がすぐにはよそにいかないという意味では、委任による慣性にも注目して診断したほうがよいのかもしれません。


では、良い戦略とは何なのか、どこが悪い戦略と違うのか。その問いについては、だいたい今まで紹介してきたとおり(悪い戦略の反対)ですが、気になるのは次の一節。

(引用)
良い戦略は必ずと言っていいほど、このように単純かつ明快である。・・・必要なのは目前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素―すなわち、こちらの打ち手の効果が一気に高まるようなポイントをみきわめ、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる。(p.4)

◎コメント
たしかに梃子の原理のように、どこをつくと、事態が大きく変わりそうかというポイントを見極める努力は必要だろうと思います。

しかし、戦略って、そう単純、明快なものなのでしょうか?という疑問が湧きます。単純、明快ならば、なぜ他の競合企業等はやらなくて、そこの企業等はできたのでしょうか。あるいは、なぜほかの人は思いつかずに、その人は思いついたのでしょうか。僕は、良い戦略とはについては、この本の著者の主張よりも、楠木建先生が「ストーリーとしての競争戦略」で述べているように、一見業界の常識とは反しているような打ち手を含む、しかも因果関係で一定の時間が経たないと効果が分からないような、一連の一貫性のある取組が戦略という考え方のほうがしっくりきます。

しかも、やっかいなのは、学力不振校の戦略などをイメージすると、背景はさまざまなものがあり、課題の特定は相当難しいし、梃子となるようなところを見つけるのは、相当苦労します(すぐに見つかるなら、そんな多くのところで困った事態にはなっていないはず)。そういう困難な状況にいるからこそ、しっかり課題を診断して、リソースを分散的に使わないように、というのが本書のメッセージだとは思いますが、ん~、言うは易しと感じます。

以上、やや長い読書感想文の割には、最後歯切れの悪いコメントかもしれませんが、現実はそう単純ではないですしね。

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