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(読書ノート)一流の狂気―心の病がリーダーを強くする

心の病が人を強くする

本書、ナシア・ガミー著『一流の狂気』を読むと、自分の鬱病などの心の病気への認識を大きく改める必要を痛感した。なぜなら、精神的な病だからこそ、人は強くなれるところもある、というのだ。

どういうことか。本書に登場するのは、リンカーンフランクリン・ルーズベルトチャーチル、ガンディー、キング牧師ケネディ。誰もが知る、これら歴史上の偉人は、鬱病躁鬱病もしくは気分高揚性パーソナリティ(軽度の躁)を患っていた可能性が相当高いことを医者でもある筆者はさまざまなエビデンスから診断する。

本書の主張ははじめに要約されている。

この本は、少なくともあるきわめて重要な状況においては、狂気こそがよい結果をもたらし、正気こそが問題であるということを主張する。すなわち、危機の時代にあっては、精神的に正常なリーダーよりも精神的な病んだリーダーの指揮下にあるほうが私たちはうまくやっていけるのだということを主張するのである。

なぜそんなことを言えるのか、詳しくは本書で上記の偉人たちの伝記風な物語とともに丁寧に解説されている。そして、本書が優れているのは、精神的に異常ではない(つまりメンタルヘルシーな)リーダーと対比させて分析している点である。

そのせいで、400ページもあり、とにかく長い。しかし、まあ、読んでよかったと思う。

 

躁鬱の人はリアリズム、レジリエンス、エンパシー、クリエイティヴィティに富む

本書では、鬱病などのリーダーの特性として、エンパシー(共感)が普通の人(本書ではホモクリットという用語)より強いことをあげている。妻はガンディーが好きで、インドや南アフリカのゆかりの地を訪ねたことがあるほどだ。だから本書もおススメしておいた、「ガンディーも鬱病だったんだって。君も偉人になれるかもね」。

僕がエンパシー以上に危機のリーダーシップという観点から重要と感じたのは、リアリズム(正しい現実認識)である。本書の主張を要約すると、普通の人は楽観的にみてしまう傾向があるが、鬱病の人は現実を直視する(それゆえ欝になりやすい)。これがチャーチル(重度の鬱病)とチャンバレン(精神疾患はおそらくない)の差として出たというくだりは、本書でも特に興味深い箇所だ。

このように、本書を読むと、精神的な病は、その本人や社会にとって、むしろ強みになることがある、ということが分かる。

 

歴史学と医学、心理学などが融合した本であり、文系・理系あるいはもっと専攻を細かく分ける日本の大学の勉強の仕方では、このような本は書けないと思う。著者の労作には大変リスペクトするが、一方でやや荒っぽさも感じる。鬱病躁鬱病をひとつまとめて論じていいものか、またこれらと気分高揚性パーソナリティはさすがに違うんじゃないか、と思う(このあたりは訳者あとがきにも書いている)。

さて、僕の好きな日本の歴史で本書の知見をちょっと借用してみよう。真っ先に思いつくのが信長である。躁鬱なのか、あるいは、性格的に何か普通とは違うものをもっている(実は繊細な側面も記録に残っているし、彼ほどリアリズムのすごい人物はそういない)。もっと分かりやすいのが上杉謙信で、躁鬱の可能性がかなり高いと思う(よく毘沙門堂にひきこもるし、はては大名のくせに出奔しようとしたときもある。そのくせ、戦ではめっぽう強いのは状況判断が優れていたこともあろう)。世界史ではどうだろう?秦の始皇帝はかなり病んでいたのではないか?カエサルポンペイウスとの差はどこから来たのか???

歴史トークはこれくらいにして・・・ともかく、鬱病などの心の病への認識を大きく変える一冊であることは間違いない。400ページ読むのはきついが、今日紹介したエッセンスのところだけでも、多くの方に知っておいてもらえると嬉しい。

最後にひとこと。本書の主張が正しいかどうかは要検証としても、うつ病の人に冷たい組織は、危機の時代に自らを弱くしているのかもしれませんぞ!

一流の狂気 : 心の病がリーダーを強くする

一流の狂気 : 心の病がリーダーを強くする

 

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