大河ドラマ真田丸から会議の仕方をまなぶ
昨日の大河ドラマ真田丸は、合戦などの派手なシーンはまったくなかったが、これまででもっとも見ごたえのある回のひとつだった。大坂冬の陣の直前の軍議、作戦会議を描いたもの。脚本の三谷幸喜さんは、清須会議で小説と映画を出してしまうほどの会議好き。その真骨頂が出た回だった。
ドラマはドラマなので、史実はどうだったかは分からないところも多いが、今回のシーンには、あらゆる組織での会議の作法として勉強になるところがあった。
①目標のベクトルを合わせること
この軍議では、5人衆と言われる大坂方の牢人衆のリーダー格が、豊臣秀頼(秀吉の息子)ならびにその側近と話し合う。家康を相手に、籠城するべきか、はたまた討って出るべきか。
詳細はドラマを見てのお楽しみだが、5人衆の意見は分かれる。「なぜ籠城戦にこだわるのか」、「そもそも、あなたはなんのために大坂に来たのか(=負ける可能性の高いほうにわざわざついたのか)」と真田信繁(幸村)がほかの4人に詰め寄るシーンが印象的だ。
そうすると、もともと烏合の衆と思われていた牢人たちだが、それぞれの思いがやはりバラバラであることが判明する。
- ある者はとにかく武功をあげたい、自分を試したいために来た(毛利勝永)
- ある者は家康のキリスト教禁止が許せないから大坂方に来た(明石全登)
- ある者は一国の大名に返り咲きたい再チャレンジのために来た(長宗我部盛親)
そこで、信繁のシビれるシーンがある。「みんな思いはそれぞれだが、ひとつ共通している点がある。生きなければ、勝たなければ、叶わないということだ」。
このあたり、学校などでもそうだが、みんなが各々のこだわり、思い、教育観をもっている。そのベクトルを少しずつ合わせていくことにもヒントがあった。
※拙著『変わる学校、変わらない学校』にも関連する箇所はある。
共通点は何なのか、それも、共通して成しとけなければ、みなの思いが実現しないことは何なのかと探していくのである。大事なのはベクトルを完全に一致させようとすることではない。少しずつ方向を合わせていき、和をとれるところを見つけることだ。
②ジョーカーになる
籠城か討って出るか。最初の軍議では、まず秀頼側近の大野治長(※ほかのドラマや小説と違って、今回はヘボい役には描かれていないことにも注目)らが籠城を主張、また5人衆のうち4人までもが籠城と主張して、場の空気は一気に籠城となった。
最後に口を開いた信繁が「不承知」と一言。徳川本隊が到着していない今のうちに、家康のいる京都に攻め上るべきと主張した。
これは、信繁がいわば「ジョーカー」となったのだ。会社などの会議でもみんながそうだ、そうだといって場の空気(日本人はこれが好きだと言われる)が決まりかけたとしても、そこに疑問や批判を差し込む者がいなければ、よりよいアイデアにはならない。
映画「12人の怒れる男たち」という名作をご存じの方は思い出してほしい(見ていない方はたぶんネットにもあるから、必見。ちなみに三谷幸喜さんはこの映画が大好きと言っていた)。ひとりの疑問が大事なことは多々ある。
あなたの組織には、ときにジョーカー役となってくれる人はいるだろうか?
③根拠なき楽観論
ドラマで信繁が述べていたとおり、籠城戦というのは、こもっている間に他の場所から援軍が来て、そいつと敵を挟み撃ちにできるから効果的だとされている。大坂の陣では援軍が来る見込みはないのに、なぜ籠城戦がよいと思うのか、信繁が周囲に問いかけた。
織田有楽斎のセリフだったと思うが(記憶がややあいまい。東京の有楽町は彼が住んでいたことから)、「1年2年籠城していていれば、そのうち家康が死ぬ」。
実際、史実として家康は大坂夏の陣の翌年、安心したかのように天寿をまっとうする。しかし、それは後でわかること、この時点では不確かである。
こういうのを根拠なき楽観論という。戦前の日本軍部はこれが支配していたと言われている。小池都知事が座右の書としてあげた『失敗の本質』という太平洋戦争での日本軍部の失敗の要因をたいへん意欲的に分析した作品がある。これにも楽観論や空気の支配という論点は出てきたと思う(ずいぶん前に読んだきりだから、また再読しないと)。
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根拠なき楽観論は会社でも、行政でも、学校でも、あらゆる組織で起こりうる。
- 新興国の景気がよいので、進出すればうちの商品は買ってくれるはずだ。
- わが社の技術力をあげた開発したこの新機能は、きっと消費者に受け入れられるはずだ。
- 大きな予算をかけて、みんなで話し合って進めたこのプロジェクトはうまくいくはずだ
などはいずれもプロダクトアウトの発想で、顧客や競合を見ているとは言い難い。他社も同じように考えて進出してきたら、なぜうちの商品・事業は勝てるのか、根拠は薄い。
学校でも
- いまは荒れているところもあるが、この3年生が卒業すれば落ち着いてくるはずだ。
- 学校評価のアンケート結果が去年よりよくなかったのは、よそで〇〇の事件があった影響もあるだろう。
などは、根拠なきと言えば、やや言い過ぎだけれども、楽観論で本当の原因や課題を分析しようとしていない、思考停止になっているかもしれない典型例である。
この根拠なき楽観論が場の空気として支配しかけるときに、②で述べたジョーカー役が大事になる。
もっとも、今回のドラマでは信繁の作戦も相当楽観論ではあった。たしかに徳川本隊がいないうちに京都を攻める、家康は大坂方は籠城すると思っているだろうから油断しているだろうと。兵数は大坂のほうが少ない(半分)、しかも牢人の集まりなのだから、本当に勝てる見込みはあったのか?
実は、秀吉と家康は信長に学んだことが多かったが、そのうちのひとつが油断しないことである。信長が本能寺の変で死んだのは、まさか攻めてくるやつはいないとふんで、京都の防御体制が脆弱だったからだ。この反省から、秀吉、家康は伏見城を重視した。
ところで『失敗の本質』でも十分分析されていたかどうかわからないが、根拠なき楽観論は、勝者となる側にもおこりうる。この大坂冬の陣、そのあとの夏の陣の時点では、おそらく、徳川方のほうが勝ち間違いなしとして安心していたはずだ。この点が、真田信繁の名を後世に残すひとつの背景となったのだと推察するが、これは大河ドラマの終盤でおそらく描かれることになるだろう。
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