妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

学校の先生はだれが、なにに忙しいのか

前回の記事に続いて、学校の多忙化の実態について、観察した結果をお知らせします。

労働時間が週50時間未満の人は小学校、中学校にいない!?

ちょうどこの記事を書こうとしていていたら、昨日ヤフーニュース(元は朝日新聞記事)で次の調査結果が出ていました。

週に60時間以上働く小中学校の先生の割合が70~80%に上ることが、全国の公立小中学校の教諭約4500人を対象にした連合のシンクタンク「連合総研」の調査でわかった。・・・(中略)・・・・
調査は2015年12月、労働組合に入っているかに関係なく、公立小学校教諭2835人、中学校教諭の1700人を対象に実施。小学校1903人(回収率67%)、中学校1094人(同64%)が回答した。
調査では、週あたりの労働時間を20時間未満から60時間以上まで5段階に分けた。小学校教諭で週60時間以上働いている割合は73%、中学校は87%。小中とも50時間未満の教諭はいなかった。

headlines.yahoo.co.jp

まず、週50時間未満の人が小学校にも中学校にもいない、というのが大きなことです。これは2つの可能性があると僕は解釈しています。

ひとつは、ほぼ毎日定時で帰ると週40時間くらいになるはず(※)なので、事実上、定時で帰れる人はいない、ということを意味している可能性です。
(※)ちゃんと取れない人も非常に多い休憩時間をどうカウントするかにもよる。

もうひとつは、調査対象に偏りがある可能性。この点は、調査の詳細を見ないとなんともコメントできません。

週60時間超で過労死ライン超えが常態化しているのは、ほかの調査でも明らか

前回の記事でも書いたように、OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013の日本のデータを週30時間以上働いている常勤の教師を対象に集計すると、週30時間以上40時間未満の人が4.0%、40時間以上60時間未満の人が41.5%、60時間以上75時間未満の人が42.0%、75時間以上が12.5%でした。

はじめに引用した連合総研の調査が2015年ですし、ちがいはありますが、結果としてはTALISとも似ています。むしろ事態は2013年から2015年の間に悪化している、と解釈できるかもしれません。

週60時間以上というのは、月残業時間が80時間を超えますから、過労死ラインとされている水準を超えています。両方の調査を見て、このラインを超える人がたくさんいることは、学校では半ば当たり前、状態化していることが示唆されます。

TALISは中学校の先生だけなのですが、連合総研の調査では小学校の先生も忙しいことがよくわかりました。たいへん貴重なデータです。

だれが忙しいのか

そして、ここからが今日の記事の本番(TALISを使うので中学校についてのみ)。では、どんな人が、なにに忙しくなっているのでしょうか?前回の記事でデータをもとにこう特徴を分析しました。

過労死ラインを超えるくらいの長時間労働をしている教師は、部活も、授業準備も、校務分掌も熱心にやっており、もっと時間があればもっと授業準備や自己研鑽もしたいと思っている傾向が強い

そして、次の2つの可能性があるのでは、と仮説を述べました。

  • 若手に重めの部活顧問や慣れない分掌の仕事がおりてきていること
  • 中堅・ベテランでできる人に仕事が集中して、その人がすんごく多忙になっていること

そこで、もう少しデータを細かくクロス集計してみました。

長時間労働はとくに34歳までの若手に多い。ただし、中堅・ベテラン層にも広くいる。

下の表は、週の総労働時間を4つのグループに分けたうえで、年齢構成を見てみたものです。とくに週60時間以上と働き過ぎな2つのグループをよく見てください。

(注)表の下のほう、%は、4つのグループごとに、どの年齢層にどのくらいの割合で分布しているか示します。「計」の欄は年齢別に集計した合計です。各年齢のところの計の%(4.9%,13.2%など)よりも、高く出ている場合は、より出現率が高いことを示します。

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ここからわかることは主に2点です。

ひとつは、22歳~34歳までの世代(どこまで”若手”と言ってよいのかわかりませんが、教員になっておおむね10年未満の教師たち)の中には、週60時間以上75時間未満や75時間以上働いている人がかなりの割合でいる、ということです。とくに25~29歳の人の75時間以上という人は相当高い出現率です。

もうひとつわかることは、忙しいのは若手だけではない、ということです。週60~75時間や75時間以上の人は、各年齢層で1割前後分布しています。それだけ広くどの世代でも忙しい人はいるということを意味しています。

なんのせいで忙しいのか?

次にちょっと細かい表ですが、次のものは、週40時間以上働いている人を対象に、総労働時間の先ほどのグループと年齢層別に、どんなことにどのくらい時間を使っているかを整理したものです。

(注1)いくつか回答数が少ないところでは、おひとりの回答の影響が強く出ていしまいます。 

(注2)目安として、日本全体の教師の平均的な時間の使い方から2時間以上たくさん使っているものには色付けしてあります。

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ここから、次のことがわかります。

第1に、多くの時間を取られる傾向があるのは、授業の計画・準備、課題の採点・添削、学校運営と一般事務、課外活動です。

よくモンスターペアレントなど、保護者対応が大変だと言われていますが、保護者対応はそれほどの時間を示していません。もちろん、個々の学校や状況によってちがうでしょうけど、平均するとそうである、ということです。

生徒相談は、75時間以上グループのいくつかの年齢層でより多くの時間を使っている傾向にあります。しかし、週5時間前後であり、ほかの業務よりはウェイトが高いわけではありません。もっとも、保護者対応や生徒相談は精神力を使うので、よりきつい(つまり負担感やストレスは強い)という可能性はあります。

第2に、忙しくするウェイトの高いものとして、やはり、課外活動、多くは部活動の負担がある、ということです。

週60時間以上75時間未満のグループと75時間以上のグループを見ましょう。課外活動に多くの年齢層が10時間前後、特に若手では約15時間使っている人も多くいます(平均値なので、個別にはこれより少ない人ももっと多い人もいます)。この時間量は、授業の計画・準備と同じか多いくらいであり、学校運営+一般事務に関する時間よりも多いです。

部活動が生徒にとってさまざまな良さや意義はあるとは思いますが、これを見る限り、過労死ラインを超えてまで、週10時間や15時間もやる必要が本当にあるのか、僕は強く疑問に感じます。

学校の先生の中には、部活指導は好きでやっているから負担に思わないという人もいますが、そうではない人、イヤイヤ顧問にさせられている人もいます。また、書類作成や会議がムダが多い、できるならやりたくない、と多くの教師は言いますが、そうした時間よりも多くの時間を部活では使っているのです。

第3に、週75時間以上の45~54歳くらいの年齢層では、授業準備や課題の採点・添削にもかなり多くの時間を使っています。いくつか可能性があります。

  • 1人あたり多くの生徒を相手にしており、評価や成績処理などにも非常に時間がかかっている。これは家庭科など、その人しか教えられないのだが、1人や2人しかいないというケースでよく起こります。
  • 研究主任や教務主任となったり、新しい研究課題などにも精力的に取り組んでおり、手間がかかっている。

などがあるかもしれません。そうした人は元気そうでも、バーンアウトになる可能性もあり、注意が必要だと思います。

第4に、世代間ギャップと言いますか、年齢層によるちがいが明白です。75時間以上のひとに注目しましょう。若手は授業準備にも時間を使っていますが、圧倒的に部活動など課外活動の負担が重いことがわかります。重めの部の顧問にさせられている可能性が高いと思います。

35歳以降の世代では、一般事務の時間もかなり増えていきます。つまり、中堅・ベテランには分掌の主任や主幹、あるいは教頭職となり、学校運営や事務に時間がとられることも多いということを示唆します。ここが、前回の記事で述べた、「できるやつに仕事が集中する」傾向となっている可能性もあると思います。

 

では、どうするか!?

特効薬はありません。急に教員数が大幅に増えるのほど国家や都道府県の財政に余裕はないでしょうし。しかし、データからいくつか示唆されるとおり、メスを入れるところは見えてきます。

1つ目は、やはり部活動です。この負担が重過ぎるのではないか、ということは再三申し上げました。休養日はもちろんですが、部活の数を減らすことを含めてやっていくべきです。

2つ目は、授業準備や採点・添削にも相当の時間がかかっている事実。これは、急激に減らすことは難しいし、学力向上やアクティブラーニングなどでは、もっと必要という部分もあるかもしれません。しかし、教材や研究について、先人や隣人の蓄積を活用させてもらうということ、単元・教科書に軽重つけるところはないのかよく検討することなども必要かと思います。

また、業務アシスタントの活用はひとつの軽減策です。印刷やちょっとした採点などは、教員でなくてもできることは任せるという道です。

3つ目は、学校運営や一般事務です。これは、そもそも教員間での分担関係の見直し(できるやつに頼り過ぎていないか?)、事務職員と教員の分担関係の見直し、業務アシスタントの活用、会議の仕方の工夫など、いろいろ改善の余地はありそうな領域です。

今回、高校について扱いませんでしたが、おそらく中学校と似た部分も多いと思いますし、中学校以上に教員間の業務負担のバラつきが大きい(仕事が集中する人に集中する)はあると推察します。

小学校については、部活以外の部分はかなり当てはまる部分もあると思います。また、小学校ではやはり学級担任が抱え込むということをどうするか、という点もよく見なければなりません。

以上、長くなりましたが、だれが、なにに忙しいのか、みなさんの学校ではどうでしょうか?まずはよく現実を見て、本当にそれほどの時間をかけるべきなのか、あるいは無理を強いていないか、確認することだと思います。

◎前回の記事はこちら

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