妹尾昌俊アイデアノート

妹尾昌俊アイデアノート~ステキな学校、地域、そして人たち

元気な学校づくりと地域づくりのヒントをお届けします!

部活の休養日は大事だが、それだけでは解決しない

みなさん、正月は多少はゆっくりできましたでしょうか?今日から学校が始まったところも多いと思います。また忙しい日々だという方も多いと思います。

「学校の先生たちの多忙化をどうするか」は、最近も大きな話題となっています。

新人教員が自殺

NHKの取材によると、ここ10年の間に少なくとも新人教員の20人が自殺したことが、先日報道されました。

精神疾患などにかかる公⽴学校の 新⼈教員が急増し続ける中、この 10年間で、少なくとも20⼈の 新⼈教員が⾃殺していたことが NHKの取材でわかりました。教員は新⼈でも担任をもったり、保護者に対応したりする必要があ り、専門家は「新⼈教員は即戦⼒ として扱われ、過度なプレッシャーを受ける。国は⾃殺の現状を把握して、改善を図るべきだ」と指摘しています。
学校の教員は採⽤されたばかりの新⼈でもクラス担任や部活動の顧問を任されたり、 保護者に対応したりと、ベテランと同じ役割が求められています。
⽂部科学省によりますと、昨年度、精神疾患などの病気を理由に退職した新⼈教員は 92⼈で、平成15年度の10⼈と⽐べて、急激に増えています。
さらにNHKで、昨年度までの10年間に死亡した新⼈教員、合わせて46⼈の死因 について、取材した結果、少なくとも20⼈が⾃殺だったことがわかりました。
NHK 2016年12月23日

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161223/k10010817981000.html※今はリンク切れ

この報道について、SNS上で学校関係の知人からは、新人に無理をさせていている問題も深刻だが、しんどいのは新人だけではない、という話も出ていました。すべてが過重労働との関係とは限りませんが、1人でもこのような悲しいことを起きないようにするには、どうするか、僕も悶々としていて、今日は多忙化について書きたいと思います。

年明け早々には、文部科学大臣が学校の業務改善に取り組むことを語っており、通知も出ました。

文科省は来年度から教員の多忙化解消に乗り出す。各学校の課題を踏まえ、業務改善に向けた重点モデル地域を指定するほか、学校や教委に「業務改善アドバイザー」を派遣する体制を整える。運動部活動については、適切な練習時間など定めるガイドラインを策定する。さらに1月6日付で、中学校の運動部活に対して休養日を設定するよう都道府県教委に向けて通知を発出した。

教員の多忙化解消へ 業務適正化で重点モデル地域指定 | 教育新聞 電子版

 

「部活に休養日を」は浸透するのか?

「部活に休養日を」というのは、いまに始まった議論ではありません。

休養日の設定は旧文部省が1997年にも「中学校は週2日以上」「高校は週1日以上」と目安を示したが現場に浸透しなかった経緯があり、どこまで実効性を持たせるかが課題になる。 (毎日新聞2016年6月13日)

今回もどうでしょうか?国や教育委員会がどう言おうが、

  • 学校間で競争している以上、練習はやりたい、あるいは、やらざるをえない
  • 一部の熱心な保護者からの声でやらざるをえない
  • 部活命という熱血教師もいて、その人を納得させることはすごくむずかしい

などなど、現場からは冷ややかな声も聞こえてきそうです。

 過労死ラインを越えて勤務する人が半分近く

どうなるかの予測は難しいですが、実態を踏まえた話をするため、今日はすこしデータを確認したいと思います。OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013を活用します。中学校の常勤の先生についてのみです。日本についてローデータをもとにクロス集計しました(明らかな特異値は集計外)。

TALISでは、何時間くらい、なにに費やしたかをアンケートで回答しています。この調査方法ですと、きちんと毎日記録したものではなく、教師の主観と記憶に依存しますので、多少あやふやなところはありますが、傾向を知ることはできます。

次の表は、1週間の総労働時間別の結果です。

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まず最初にわかったのは、週60時間を超える人が多い、ということでした。週60時間労働と言うと、残業時間は週20時間超、過労死ラインといって労基署が過労死認定するときの参照基準が月80時間なので、これを超えています。

いろんな勤務形態が学校にはありますから、一概に比較することは難しいのですが、週30時間以上働いている常勤の教師を対象に集計すると、週30時間以上40時間未満の人、(つまり、ほぼ定時前後で帰れている人)が4.0%、40時間以上60時間未満の人が41.5%、60時間以上75時間未満の人が42.0%、75時間以上が12.5%でした。つまり、30時間以上働いている人の半数以上は過労死ラインを超えており、75時間以上という超過重労働の人も1割強います。

率直な感想としては、先生たちは大丈夫だろうか、心配になる結果です。

長時間労働している教師ほど課外活動(部活等)の時間も長い

また、長時間労働グループの教師ほど、課外活動の時間も長いということがわかりました。もっている授業時間や保護者対応などはそう大きな差はありません。比較的差が大きいのは、色付けした、課外活動、授業の計画や準備、一般的事務業務の3つです。

課外活動には部活動以外も入ってきますが、日本の中学校ではほぼ部活が占めると考えて間違いはないでしょう。週60時間以上75時間未満の人は授業準備に匹敵するくらいの時間を、週75時間以上の人は授業準備より多くの時間を部活に割いていることがわかります。

部活の生徒への効果は大きいことは僕もよくわかります。生徒指導上の効果に加えて、挑戦することや厳しい練習を継続することで、生徒は人間的にも成長します。『GRITやり抜く力』という本にも書かれているとおり、課外活動は、学校を卒業した後も大事になる力を育む効果があります。

しかし、学校の、教師の本来業務とは何か、と考えたとき、やはり、主客逆転しかねない、部活の行き過ぎの実態が示唆されます。

参考までに、表の下のほうには、総労働時間のグループ別に、なにの業務にどのくらいの割合の時間を割いているかも示しました。

 長時間労働している教師は部活命だけではない。授業準備も熱心。

もうひとつ重要なことがあります。このデータを見る前、僕は自分の中学生のときの体験から、「部活熱血なのは保健体育の教師に多くて、体育はほかの教科に比べると教材準備・研究も少ないだろうし」と思い込んでいましたが、どうも現実はちがうようです。

というのは、週60時間以上働いている教師の多くは、授業準備にもほかの教師と比べて多くの時間を割いている傾向があるからです。

長時間労働な教師はもっと自己研鑽したいと考えている

次のグラフは同じTALISで職能開発、つまり、研修などの自己研鑽の必要性について聞いた質問をもとに作成しました。担当教科等の知識と理解について、また担当教科等の指導法についてともに、職能開発の必要性が「高い」と回答する割合は、週60時間以上働く教師グループでは高いことがわかります。

 

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 また、「職能開発の日程が自分の仕事のスケジュールと合わない」という質問について、「非常に妨げになる」と回答する割合は、長時間労働のグループほど高く、週60時間以上75時間未満の人の42.6%、週75時間以上の51.4%が「非常に妨げになる」と回答しています。

長時間労働の教師は、部活の負担に加えて、授業準備や自己研鑽にも熱心で、学校の事務もよく担っている。できる人には仕事が集中?

加えて、週60時間以上の人には、事務業務の時間も相当あります。学校運営のカテゴリーと微妙ですが、おそらく校務分掌の業務などが含まれていると思われます。

以上のことから示唆されるのは、「過労死ラインを超えるくらいの長時間労働をしている教師は、部活も、授業準備も、校務分掌も熱心にやっており、もっと時間があればもっと授業準備や自己研鑽もしたいと思っている傾向が強い」ということです。

「できる人には仕事が集中する」というのは、企業でも役所でも、どこの組織でもありがちな話ですが、中学校でもその可能性があります。

あるいは反対に、部活も、授業準備も、校務分掌もなかなか効率的にできない人が長時間労働になっている、という可能性もあります。

おそらく、多くの学校で、現実には両方の現象が起きているのでないかと思います。(これは解釈なので十分に検証できていませんけれど)。

そう解釈する根拠のひとつは、増加する若手教員です。シニア世代が大量退職し、いまでは多くの中学校で若手が増えています。もちろん、若手だから必ずしも非効率に仕事しているとは限りませんが、負荷の重い部活の顧問にさせられたり、慣れない校務分掌に苦戦したり、同時に自己研鑽をもっとしたいと思っている若手は多いのかもしれません。実際、TALISを年齢別に集計すると、若い年齢層ほど労働時間は長い傾向を示します。

また、これにも関わりますが、「できる人には仕事が集中する」も起きているのでしょう。若手にはどうしても任せられない仕事がある(たとえば教務主任)、それは数の少ない、できるやつにやってもらうしかないといった現象です。

 

話をもともとに戻すと、こうした実態を踏まえると、部活の休養日を設けることは重要でしょうが(部活の負担が重いことは確かなので)、教師の過重労働の問題の一部分でしかありません。仮に部活の時間が多少減ったとしても、分掌の仕事や授業準備のほうの時間が増え、総労働時間は大して変わらない、という事態も考えられます。

長くなったので、今日はこのへんで。

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休養日の設定は旧文部省が1997年にも「中学校は週2日以上」「高校は週1日以上」と目安を示したが現場に浸透しなかった経緯があり、どこまで実効性を持たせるかが課題になる。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20160614/k00/00m/040/082000c#csidx55098f9becb9e1ebf01528874975fcb
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