妹尾昌俊アイデアノート

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モモの読書感想文 灰色の男たちの手口からぼくらが学ぶべきこと

先日、小中学校の先生らの有志の読書会に参加してきました。毎回、各自のおススメ本を紹介するのと、共通の課題図書の感想をシェアします。ぼくは初参加でしたが、各自のいろんな感想、読み方にふれることができて、とても楽しかったです。

たまたま、今回の課題図書は『モモ』。とっても有名な児童書ですが、ぼくは子どもの頃ほとんど読書しなかったこともあり、初めて読みました。

ちなみに、今回は新小6の子も参加。「私は、モモは大人が子供に読ませるのではなく、子どもが大人に読ませる本だと思いました」と感想をもらいましたが、おっしゃるとおり!!!

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

灰色の男たちの世界征服の手口が実にうまい

この物語は、10歳前後の身寄りのない、ちいさな女の子、モモが、時間どろぼうの灰色の男たちとたたかっていく様子が後半描かれています。ぼくがもっとも率直に感じた感想のひとつは、この時間どろぼうの手口がうまいな、ということです。

人間に、あなたはこれほど時間を浪費している。もっと節約したほうがあなたの人生のためですよ、と灰色の男たちは詰め寄ります。その説得の仕方が実にうまくて、何秒なにに使ったか、たとえば、睡眠に、仕事に、食事に、母の世話に、インコの世話になどなど、逐一すべて見える化するのです。

そして、灰色の男たちは、人間たちが節約した時間を時間貯蓄銀行にためておける(しかも、時間の利子もつく)とウソをつき、その節約された時間をエネルギーにして増殖していくというわけです。こう話します。

これからさき二十年も、あなたがおなじように一日2時間の倹約をなさったとすると、なんと1億512万秒というすばらしい額になる計算です。そうなると、あなたは62歳にたっしたあかつきには、この大資本が自由に使えるわけです。(大判p86)

こんなふうに言われると、だれもが、たしかにこのままじゃヤバいかも、時間の使た方を見直そう、貯蓄できるならしときたいな、と思ってしまいます。

それも、この説得工作をほとんどだれにも見られない、証拠も残さないかたちで遂行していきます。まったく、仮面ライダーのショッカーやスーパー戦隊ものの悪役たちなどと比べても、ダントツに頭が切れる連中だなと思いました。

同じ方法がタイムマネジメントやコスト意識を高める際に使える

この灰色の男たちがやった同じ方法が、毎日忙しい、灰色の男たちに支配されつつある、みなさんにも使えます!

ぼくがたびたび研修や講演をしている、学校向けの多忙化対策や業務改善についても同じです。先生たちに、1週間でもよいから、おおよそ、なににどのくらいの時間を使ったか、記録してもらうとよいのです。たとえば、

・睡眠

・食事、風呂、トイレなどの日常生活

・趣味、娯楽

・家族や友人と過ごす

(以下は大きくは仕事だが、細かく分解できるとなおよい)

・授業

・授業の準備、教材研究

・宿題等の採点、チェック

・会議

・事務作業

・児童・生徒との相談、生徒指導

・部活 

などといった具合です。

こういうので見える化して、ほかの人とも比べてみても興味深い発見があると思います。

かなりの働き者と働き過ぎの人とのちがい

それで、試しに簡易な方法でシミュレーションしてみたのが、次の表です。

1日に、なにに何時間くらいかけているか、書きます。平日と休日ではちがうので別にします。

仕事はもっと細かく書いてもよいですが、今回は簡略に。平日は、通勤時間も仕事時間のうち1時間程度含むとしました。

趣味・レジャーは、ぼくの場合はゲームをしたり、純粋に好きな本を読んだり、サップに行ったりする時間です。家族や友人はぼくの場合は多くが育児と家事、たまに飲み会です。

それで、1日あたりのものをもとに、年間何時間くらいで、どれにどのくらいの割合を使っているか、計算したのが下のほうの表です。

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とりあえず、学校の先生たちにもありがちな、2パターン考えてみました。

(1)はけっこうな働き者です。平日10時間くらい働いていますし、土日も1時間くらいは仕事のことをしていますから(土日のどちらか2時間と捉えてもよいです)。計算すると、月残業時間でいうと、60時間くらいで、過労死ラインは80~100時間以上なので、これよりは下回ります。

このくらい働く人であれば、年間にして、仕事の時間は2,815時間(10,134,000 秒)になります。だいたい、睡眠などを含めた人生トータル時間の32%を仕事に使っていることになりますね。ん~、けっこう多い気もしますが、そんなものか、という気もします。年間で計算すると、そう睡眠時間と大きな差はありませんしね。(1)の場合は、けっきょく、仕事以上の時間を、食って、好きな人といて、好きなことをしている時間にもあてているのです。

(2)は学校の先生に、かなりありがちなパターンです。朝8時前には来て、夜は21時すぎに出るイメージで、土日も丸付けやら授業準備やら、部活の面倒などで1日3時間くらい使っています。過労死水準で働き者と書きましたが、月だいたい140時間残業であり、過労死ラインを大きく超える過重労働です。

この(2)の人になると、仕事は年間3,790時間(13,644,000秒)であり、(1)の人よりも千時間ちかく多いですね。仕事の割合は43%です。

これをどう評価するかは、各自の価値観にもよるとは思います。ぼくはというと、やはり人生の4~5割近くも仕事に使うのがいいか、3割くらいにしておくかと言えば、後者のほうがいいかなとは思います(が、いまは自営だし、いつでも作業ができるぶん、たまに休日もないときもありますけど)。

まあ、こういう発想自体が、灰色の男たちに毒されているのかもしれませんけれど、一度見つめなおすにはいいワークだと思いますよ。みなさんもかんたんな表ですから、いちどやってみては?

灰色の男たちは、手法は巧妙だが、あとのビジョンはない

ところで、このモモのストーリーを読んで、思い出したのは、『「世界征服」は可能か』という面白い本です。

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

 

少しうろ覚えですが、この本では、マンガやアニメなどで世界征服を企む悪役たちの手法の妥当性を詳細に分析しています。また、岡田さんが指摘していて、とくに面白かったのは、多くの悪役たちは、世界征服そのものが目的化してしまっており、その後のビジョンがない、というツッコミでした。

このことは、モモのストーリーにも当てはまります。

灰色の男たちは何のために人間たちの時間を奪っているのでしょうか?

奪った後、人間たちを思い通りに動かしていても、灰色の男たち自身は自由を謳歌しているようには見えません。彼らとて時間にはとてもシビアに生きていて、アクセクしていますから。それに、最終的に人間たちの時間をすべて奪ってしまっては、彼らはおそらくその先の餌がなく、生きていけません。

つまり、支配や増殖という目的はあるかもしれませんが、それらが達成されたあとの世界のことがまるで頭にないように見えました。

あまり理屈ぽいことばかり並べてもどうかなとは思いますが、先ほどの時間を見える化するワークでも、考えたいのは、なんのために、なにに時間を使うのかということです。効率化や時短だけそのものが目的ではありません。言い換えると、なにに人生の楽しさ、おもしろさを考えるかということかもしれませんね。

みなさんは、どうでしょうか?

★お知らせ 

4月15日(土)@都内で、部活動をメイントピックスにしますが、教師の時間の使い方や、学校はなぜ以前からのものをやめられないのかをテーマにした読書会と研修会を開催する予定です。どなたでも参加歓迎です。

★妹尾の紹介やお手伝いできることはコチラ

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